会社が大きくなるほど、自分は経営から見えていないと感じる人は多いが、それは気のせいでも能力の問題でもない。ピーター・F・ドラッカーは『マネジメント――課題、責任、実践』[上][中][下]で、会社の大きさを売上高や従業員数だけでは測らず、トップが資料なしに把握できる人材の数で測り、その分かれ目を15人とした。自分の勤め先がいまどの段階にあるのかを問い直す手がかりが、そこにある。本連載では、膨大なドラッカーの著作を読み返し、その中から令和の現在に役立つ知を取り出して紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

ドラッカー 大企業と中小企業

会社の大きさは何で測るか

 会社の組織変更の知らせを、自分とは関係のない他部署のニュースのように読んだことはないだろうか。会社が大きくなるほど、そう感じる場面は増えていく。

 この感覚を、個人ではなく組織の側の問題として説明したのが、ドラッカーの主著『マネジメント――課題、責任、実践』[上][中][下]である。刊行は1973年、53年前である(最新の邦訳は2008年)。だが、そこで示された測り方は、いまも自分の会社に当てはめられる。

 私たちはふつう、会社の大きさを売上高や従業員数で測る。だが本書は、その物差しだけでは決まらないと説く

 1950年代の米国の消費財メーカー、アメリカン・ホーム・プロダクツは年間売上高が5億ドル(現在の貨幣価値でおよそ60億~70億ドル規模)あった。ところが経営の中枢は会長、社長、財務担当副社長、人事担当副社長の4人で、専属のスタッフもいない。本書は、この会社を大企業ではなく中企業だったと書く

 逆の例もある。自動車のフレームメーカー、A・O・スミスは従業員2万人を抱え、製造やコストで一流を追っていた。だが単一の製品、単一の技術、単一の市場のため、事業はトップ1人で動かせた。本書はこの会社を、基本的には小企業でありながら、中心となる要員が1人で知るには多すぎるとして、中企業の一類型に分類する。

 300人から400人のコンサルタントを抱える会社は、逆に本書の基準では大企業になる。売上高も従業員数も、単独では大きさを決めない。

「15人」という分かれ目

 では、何で測るのか。本書が示す基準は、一つしかない。

 トップが、書類を見たり誰かに聞いたりせずに、中心となる人材を何人思い浮かべられるか。誰が何を担当し、どんな経歴で、何ができて何ができないかまで知っている――その範囲に収まっている会社を、ドラッカーは小企業と呼ぶ

つまり、小企業では中心的な人材は少数である。15人を超えることはない。一人の人間で本当によく知ることのできる人間の数が、この15人という人数である。

――『マネジメント――課題、責任、実践』より

 この線を越えると、把握するだけで3人から4人のトップマネジメントが必要になる。知られるべき中心的な人材の数は40人から50人にふえ、会社は中企業になる。数が変わるだけでなく、経営のやり方そのものが変わる。

 さらに大きくなると、組織図や記録を調べなければ、決定的に重要な人材が誰でどこにいるのかがわからなくなる。会社が大きくなるとは、この線を越えることでもある。

似た数字、まったく違う問い

 ここまで読んで、ダンバー数を思い浮かべた人もいるかもしれない。英国の人類学者ロビン・ダンバーが示した、人が安定した関係を保てるのはおよそ150人までだという仮説である。

 数字の桁は近い。だが、両者が答えようとしている問いはまったく別ものだ。ダンバー数が測ろうとしたのは、人間に共通する認知の上限である。ドラッカーが測ろうとしたのは、組織をどう分類し、どうマネジメントすべきかという実務の目安のほうだ。問いが違えば、近い数字も別物になる

 なお、ダンバー数は定説として確立したものではなく、推定の方法に疑問を呈する研究も出ている。よく知られた仮説の一つ、という距離感が妥当だろう。

小さい会社は消えなかった

 本書にはもう一つの指摘がある。小企業は巨人に呑み込まれて消えるという予言は、100年語られ、100年ずっと外れてきたのだという。

小企業と大企業は択一的な存在ではない。補完的である。小企業と中企業は大企業に依存し、大企業は小企業と中企業に依存している。

――『マネジメント――課題、責任、実践』より

 自動車メーカーは無数の部品メーカーとディーラーに依存し、部品メーカーもまた大企業に依存している。規模の異なる会社は、勝ち負けではなく噛み合う歯車の関係にある。

 本書が今日を予見したわけではないが、会社の大きさを一つの物差しで区切る難しさは、いまも形を変えて現れる。日本政府は2024年を「中堅企業元年」と位置づけ、産業競争力強化法で従業員2000人以下(中小企業者を除く)を「中堅企業者」と定義した。大企業か中小企業かの二分法では、会社の実態を捉えきれなくなってきたのだろう。

 大きいほうが得か、小さいほうが得か。本書が答えているのは、その問いではない。自分の会社はいまどの段階にいるのか、という問いのほうである。

 上司が自分を知らないと感じるなら、会社がその一線を越えた合図なのかもしれない。会社の大きさは、外から見えるほど自明ではない。