佐藤優 知を磨く読書写真はイメージです Photo:PIXTA

最前線で働くビジネスパーソンが押さえておきたい、時代の変化とその背景を理解する上で欠かせない注目書籍を作家で元外交官の佐藤優さんが厳選する。21世紀のモノ作りにおいて欠かせない二つの製品とは?佐藤さんがロシア語を学びたい人に必ず薦めるというロシア語の最良入門書とは?また佐藤さんが尊敬する“プロの本読み”が伝授する、本から得た情報や知恵を「身体化する技法」とは?『世界は〈モノ作り〉でできている』『ニューエクスプレスプラス ロシア語』『百冊で耕す』の3冊から「ここだけは読んでほしい重要な箇所」を紹介する。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

国民生活と国家安全保障を真に支えるモノ作り
21世紀に欠かせない二つの製品とは?

『世界は〈モノ作り〉でできている』の著者、ティム・ミンシャル氏は、英ケンブリッジ大学イノベーション学教授で、同大学製造研究所所長を務める。製造業、技術革新、人材育成の関係を研究する第一人者である。

ティム・ミンシャル著(田畑あや子訳)『世界は〈モノ作り〉でできている 製造と物流で読み解く現代文明のしくみ』作品社、2026年8月刊行ティム・ミンシャル著(田畑あや子訳)『世界は〈モノ作り〉でできている 製造と物流で読み解く現代文明のしくみ』作品社、2026年8月刊行

 金融資本主義とデジタル化が進む中で、先進国はモノ作りを新興国に移転し、「知識経済」への転換を競ってきた。しかし、感染症の流行、戦争、経済制裁によって供給網が寸断されると、生活と国家安全保障を支えているのが実体経済であることが明らかになった。今後、モノ作りの価値は改めて見直されるであろう。本書は、原材料の調達から生産、物流、廃棄まで、現代の製造業の全体像と課題を分かりやすく整理した好著である。

 特に秀逸なのは、21世紀に必要な製品を二つに分類する考察だ。

〈製造業はただ修復が必要なだけのものではない。この惑星の長期的な居住可能性を保証する製品の源なのだ。(中略)

 それらの製品はふたつのカテゴリーに分類される。ひとつは地球へのダメージを軽減するもの、たとえば再生可能エネルギー供給に必要な全システムなどだ。しかし同時に、少なくとも短期的・中期的には、被害はすでに生じていることも認識している。したがって第二のカテゴリーには、私たちが引き起こした問題に〈適応〉するために必要なあらゆるものが含まれる。これには海面上昇、干ばつ、森林火災に対処するシステムの開発も含まれる。

 製造業は、さらなる被害を軽減し、過去の(そして残念ながら現在も続く)行動の結果として将来の世界が大きく変化するという事実に適応するためのシステムを提供する仕組みなのだ〉(317~318ページ)

 すなわち、今後の製造業は環境への損害を「軽減」する製品と、すでに生じた変化に「適応」する製品の双方を生み出さなくてはならない。日本のモノ作りを実際に支えているのは、独自の技術と熟練を持つ中小企業である。政府は、技術承継、人材育成、研究開発、資金調達を一体化した国家戦略を構築すべきだ。本書は、製造業を経済安全保障と地球環境の両面から捉え直す視座を与えてくれる。