茜さんの声には、ようやく決定的なものが手に入るという手応えからか、この日初めて少しだけ力がありました。
だからこそ、私ははっきり伝えました。
「茜さん、それは絶対にやめてください。買った機器は箱から出さないままにしておいてください」
茜さんは意味が分からないという顔で「どうしてですか? 事実を確かめたいだけなのに」と言いました。
たとえ夫婦であってもGPSは法律の規制対象
夫に有利に働いてしまう
相手の承諾なくGPS機器を取り付けて、その人の居場所を把握する行為は、法律の規制対象になり得ます。
かつては「グレーゾーン」と言われた時期もありましたが、GPS機器を取り付ける行為や、無断で位置情報を取得する行為が、はっきりと法規制されていることを、茜さんに伝えました。
「でも、夫婦ですよ?」と茜さんは食い下がりましたが、夫婦だから許されるという法律の条文はありません。
さらに、駐車場所によっては取り付けるために敷地へ立ち入ること自体が、別の違法行為になることもあります。
そして法律の話より先に、私は交渉の場で何が起きるかを伝えました。
相手方の代理人は位置情報の中身には乗ってきません。乗る必要がないからです。押してくるのはたった一点の「それは、どうやって取得したものですか?」です。
その瞬間に争点が変わります。夫の不貞の話から、妻がGPSを付けた話に変わる。それまで積み上げてきたものが、全部その一点にのみ込まれていく可能性があるのです。
しかも、航平さんはすでに診断書と録音を持っているのです。
「妻は感情的で、私を監視していた」という主張に、茜さんから証拠を差し出すことになります。
ついでに申し上げておくと、探偵に頼めばいいという話でもありません。
探偵も同じ法律の中で仕事をしています。もし「うちならGPSを付けられますよ」と軽く言う業者がいたら、私ならその時点で席を立ちます。
茜さんは、うつむいたまま小さく「そうですか」と言いました。







