私は続けました「その代わりにGPSに頼らない、探偵独自の方法で不貞の証拠を押さえます。人の行動には必ず癖が出ます。そこで一つお願いがあります。今日からご主人との連絡は、できるだけ文字で残してください。電話や対面で言い合いにならないように。録音される場をこれ以上つくらないためです」

 実は茜さんは、私のところに来る前に、別の調査会社に依頼していました。3回調査して費用は数十万円に上っていましたが、成果はゼロだったそうです。

妻が1年集めた“証拠”
探偵が精査すると突破口が

 これは、その探偵社が特別に手を抜いたという話ではありません。調査の設計の問題でした。

 航平さんは決まったオフィスを持たない人ですから、自宅を張っても、その日に動きがあるとは限りません。日を当てずっぽうで選べば、何も起きない日ばかりを踏むことになります。

 私は調査の前に、茜さんが集めた「意味がない」と言われた紙の束を、もう一度全部精査しました。

・ある駅の名前が入った、コンビニのレシート。同じ駅名が複数回。
・交通系ICカードの履歴。特定の曜日・特定の時間帯に、同じ方面。
・過去に3度あった無断外泊。いずれも1週間未満で、どれも週の後半に始まっていた。
・茜さんが漏らした一言「自宅の立地条件にこだわりがあって、駅から遠い部屋は絶対に嫌がるんです。満員電車も嫌いで、なるべくラッシュの時間帯は避けたがります」

 これらは「不貞の証拠」ではありません、「行動の癖」です。

 探偵にとっては、航平さんの行動を予測するための重要な手掛かりになります。

 レシートに書かれた駅。週の後半。午後7時台。その一点だけに絞って、私たちは調査を開始しました。

 午後7時41分、改札を抜けてきた男性が、スマートフォンから顔を上げ、辺りを一度見回しました。写真で何度も見た航平さんでした。

 数分後に一人の女性が合流し、二人は食事をとり、腕を組んで迷いのない足取りで女性の住むマンションへ入っていきました。