私たちはそのまま朝まで張り込み、翌日の昼前、二人が並んで出てくるところまで撮りました。

 一晩と翌日の昼まで。私たちが記録したのはそれだけです。

 けれどそれは、茜さんが1年かけて集めた紙の束が、初めて意味を持った瞬間でもありました。

夫が診断書のほかに
離婚に向けて打っていたもう一つの手

 もう一つ、茜さんには別居中の生活費という切実な問題がありました。

 別居していても、離婚が成立するまで収入の多い側が少ない側の生活を支える「婚姻費用(別居中の夫婦の生活費を分担するお金)」という考え方があります。

 金額は、双方の収入を基にした算定表という目安で話が進むのが一般的です。

 ところが航平さんは会社員ではありません。個人で稼いでいる人の「収入」は外からは見えません。経費の付け方一つで、書類上の数字はいくらでも小さく見せられます。

 茜さんに毎月渡されていたのは、3歳の子どもを育て生活するにはあまりにも少ない金額でした。

「毎月もらっているお金では、正直まったく足りないんです。増額をお願いすると、こっちも仕事が厳しいんだ!お金がない!の一点張りで、夫が幾ら稼いでいるのか、私は結婚してから一度も、はっきり知らないままなんです」

 ここで私は、もう一つの構図に気付きました。航平さんは、2つの方向で先に手を打っていたのです。

 一つは診断書と録音から「非があるのは妻の方だ」という記録。もう一つは「自分にはお金がない」という説明の徹底。

 前者は離婚と慰謝料の話に、後者は生活費と養育費の話に効果的だと考えたのではないかと思います。

 そしてどちらも、茜さんの側には確かめる手段がありませんでした。

 調査する中で、航平さんのハイブランドであろう服装や持ち物、支払いを行っていたレストランの水準などから、どういう生活水準で暮らしている人なのかがうかがい知れました。「お金がない」という言葉と、実際の生活が、どれだけ食い違っているかもよく分かる調査結果となりました。