史実を知ると見方が変わる…『風、薫る』実在モデル・大関和が内務省に「直訴」してまで訴えたこと〈風、薫る第113回〉

りんのモデルは内務省に直訴していた

 義母は不服そうだったけど夫が味方になってくれた。ただ、働いても家のことは変わらずやること。息子の面倒もしっかり見ること。家族に迷惑をかけないこと。これらを条件に出された。

 それをすべて守って、看護婦会で働くとすると、朝4時起きをして、ここに来る前に家事はあらかた終わらせないといけない。

 それでもしのぶはやりたいと意欲的だ。

「私、子を生んだら、母親以外にはなれないと思っていた」

 ところが、子育てしながら働いているりんも直美も「本当に素敵に見えた」。

 子を生んだら「母親」にキャラ変するわけではない。子を生んでも生まなくてもあなたはあなた自身である。

「それより何よりこの仕事が好き。だって私、看護婦だもの」

 どうした、急にしのぶがわかりやすい感じの良いキャラになった。以前もわかりやすかったが、それは呉服屋のプライドの高いお嬢様という属性において、であった。

 結婚後、派出看護の立ち上げを手伝ったが妊娠して辞めたしのぶ。ここへ来て、決して歩みを止めないりんと直美を見て、看護婦魂に火がついたように描かれる。と同時に木越明の演技も全然違って見える。

 以前は役割がよく見えなくて、表情も口調もはっきりしなかったが、いまは何か前向きで生き生きしている。

 物語のなかで「明るい」がテーマにはっきり掲げられたので、彼女もまた明るいほうを向いているキャラに変容したのだろう。

 直美はしのぶを歓迎する。

「一緒に戦いましょう。日本ではじめての派出看護婦会として」

 りんのモチーフとなっているとされる大関和は明治29年(1896年)、東京看護婦会講習所講師に就任。東京看護婦会は、直美のモチーフとされている鈴木雅が設立した。

 和はこの頃、看護師の質の低下を憂いて内務省衛生局に直訴している。

 それ以前、明治23年(1890年)、和が勤務していた病院をやめて新潟にいったのも病院の待遇改善を求めて建議書を提出したことがきっかけだった。自分が信じたことに関しては曖昧にせず、まっすぐ突き進む性分のようだ。

 明治32年(1899年)『派出看護心得』を出版。そこにはこのように書かれている。

「夫れ看護婦たらんとする者は先づ普通の看護学を修むるを要す。精神に於ては仁慈、敬愛、温和、忍耐、謙遜にして挙動静粛、品行方正言語を慎み、医師に対しては能く其命を守り患者に対しては貴賤上下の別なく一様に信愛を以て其本分を尽さゞるべからず」

 大関和はいつ派出看護を?と思ったら、1890年代後半、大関は群馬県や埼玉県の村々で流行した赤痢患者を隔離病舎で看護をしたときの体験を元に書かれた手引書だという。

 なるほど、病院で行う看護ではなく、看護婦が患者の元に出向いて行う看護のことなのだ。初版は『看護婦派出心得』だった。

『「看護婦」の近代社会史 誇りが拓いた自立への道(朝日選書)』山下麻衣著によるとこうある。

“第5版(1917年発行)には「市立病院派出看護婦の心得」が記されていた。この時期においては、「病院」が社会の中でより存在感を増していたことが理由の1つであったと考えられる。この版では「家庭看護」と「病院看護」の違い、市立病院で患者の看護を行う際の注意点が以下のように述べられている。”

“自宅への派遣とは違い、仕事は激しく大変である。しかし看護は天職であり、患者のためであるから、一度派遣されたならば、依頼された役目が終わるまでは必ず勤務を続けるという決意を持つこと。市立病院に入院する人々には、社会的に下層に属する人が多い。そのような人々は、市立病院に対してさまざまな誤解やひがみを抱きやすい。”

“そのため、もし看護婦が少しでも不親切な態度をとったり、乱暴な言葉を使ったりすると、非常に気持ちを害し、悪い感情を生じさせる。結果として、市における感染症予防にも大きな悪影響を及ぼすことになるので、この点には特に注意しなければならない。”

 看護は天職であるや、社会的に下層に属する人への接し方など、ここに書かれていることは、ドラマのなかでも意識されているように思う。

 明治33年(1900年)に「東京府令 看護婦規則」が制定された。和の直訴が届いたのか、さらに大正4年(1915年)には内務省令「看護婦規則」が制定される。この件はきっと今後、柳生が活躍するかもしれないので、そのときまでとっておこう。そのエピソードがなかったらすみません。

参考文献:『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中公新書 田中ひかる著)
『「看護婦」の近代社会史 誇りが拓いた自立への道』 (朝日選書 山下麻衣著)
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史実を知ると見方が変わる…『風、薫る』実在モデル・大関和が内務省に「直訴」してまで訴えたこと〈風、薫る第113回〉