デザインが透明になる瞬間
デザイナーは、唯一無二のかたちを生み出し、そこに自らの個性を刻む仕事だ、と考えている人は多いのではないだろうか。しかし、鈴木は「デザインにデザイナーの個性は不要」と言う。
「プロダクトのあるべきかたちを探っていると、もともとそこにあったものが凝固して、かたちとして浮かび上がってくることがあります。そのようにして生まれたデザインには、『こうあるしかない』という必然性が宿るんです」
鈴木いわく、「デザインが透明になる」瞬間だ。
「大原電線の延長コードも『あ、透明になった』と思った瞬間がありました。すると、意図して生み出したものじゃなく、ずっと前から存在していたように思えてくるんです」
デザイナーの作為が消え、初めからそうであったかのように場になじむ。この独特の「感じ」を、鈴木は〈Bienséance(ビアンセアンス)〉と表現する。礼儀作法や品位などを意味するフランス語だが、〈bien=良い〉+〈séance=座る〉と捉えれば「座りが良い」と解釈できる。
「美学者の伊藤亜紗さんに教えてもらった言葉ですが、聞いた瞬間、それだ!と思いました。モノがあるべき場所に収まったときの気持ち良さ。ビアンセアンスを生み出すことがデザインだとすれば、デザインされていることにすら気付かれない状態が一つの理想です」
大原電線の延長コードも、壁のコンセントに差し込まれ、家具や家電のあいだに置かれた瞬間、あるべきものとして空間になじみ、空間全体をほんの少し良くしてくれる。
こうしたプロダクトの在り方は、インフラを裏から支えてきた大原電線という会社の姿とも重なり合う。象徴的なのが、製品に刻まれたロゴだ。新たなブランドのために新しいロゴを作るのではなく、長年、同社の電線に印字されてきた〈OOHARA DENSEN〉の文字を、ほぼそのまま使うことを提案した。
Photo by YUMIKO ASAKURA
延長コードは21年に完成し、予定通り展示会に出品。同年のグッドデザイン賞ベスト100にも選ばれた。ただし、事業化にはさらに時間がかかり、本格的な販売体制が整ったのは25年末。キックオフからおよそ6年を要したが、本業を大事にしながら、急がず、納得のいくかたちに磨き込んだ歩みも大原電線らしい。







