ブランドのピースは全てそろっている
大原電線は、社長の大原豊一氏と、息子で専務の康行氏が中心になって切り盛りする家族経営の会社だ。堅実なものづくりで取引先から信頼されてきたが、下請け中心の事業環境は厳しい。かつて東大阪に数多くあった電線工場も今では数社を残すのみとなった。
仕事に誇りはある。しかし「この会社を、子どもや孫に継がせたいか?」と問われたら、はっきり肯定できない。「生き残るためには、自ら発信する力が必要だ」と考えて、〈HIGASHIOSAKA FACTORies〉に名乗りを上げたのだ。
ふたりの親子にとっては、欠けたピースを探すための挑戦だったが、同社の工場を初めて訪れた日、鈴木は「もうピースはそろっている」と強く感じたという。
「機械や道具が整然と並ぶ様子を見ただけで、技術の高さや、誠実な仕事ぶりは十分に伝わってきました。加えて、大原さん親子のオープンな人柄と、ものづくりのDNAが根付いた東大阪という土地。これらをつないで輪郭を与えることができれば、何も足さなくてもブランドが立ち上がると思いました」
では、何を作るか?
既に社内では、既存製品に機能を付加した新製品の開発が検討されていた。しかし、会社そのものを広く伝えるためには、特定の機能に特化したニッチな製品より、「電線のプロフェッショナルとしての大原電線」を象徴するものがふさわしい。そこで、鈴木が提案したのは、現在地から「半歩先」にある製品としての延長コードだった。
大原電線〈Extension Code Series〉
延長コードなら、電線製造技術という大原電線の強みをそのまま生かせる。また、長さや仕様によるバリエーションも展開しやすい。投資額を抑えながらブランドとしての製品群を育てていけると考えたのだ。
電線そのものの品質には絶対の自信があった。しかし、一般の生活者が手に取るプロダクトでは、これまで以上に細部の仕上げが重要になる。同社には、樹脂でケーブルを被覆する技術はあったが、タップ部分の成形は未経験。外注すれば話は早いが、大原電線は、自社ブランドとして責任を持つためにも、全てを自社で手掛ける道を選ぶ。
新たに射出成形機を導入し、本業の合間を縫って試作を重ねた。質感にこだわった黒い樹脂は、成形時の収縮でできるヒケ(へこみ)や傷が目立ちやすい。圧力や温度を変えながら何度もやり直す。鈴木が驚いたのは、「もう十分」と思った出来栄えでもふたりは納得せず、粘り強く品質向上に取り組んだことだ。
「大量生産品なのに作り手の姿が思い浮かぶ。工業製品なのに工芸のような趣がある。そんな製品にしたいと考えていました。大原さん親子がもともと持っていたものづくりへの繊細なこだわりがあったからこそ、それが実現したと思います」







