こうした場合、暴言にとどまらず、暴力や望まない身体の接触の強要などが見られることもあります。

 また、子どもがいる家庭では、「俺は社会でお金を稼いできているのだから」という理由で、子どもの養育や家事をすべて妻任せにする男性も見受けられます。

 こういった男性は、「からだの境界」「感情・意志の境界」「責任の境界」がすべて混乱していて、妻の言い分に耳を貸そうとしません。ですから、相談を受ける僕が介入しないことにはどうにもならないのです。

 あるご夫婦の面談に立ち会ったさいに、僕は旦那さんに「シャドウ・ワークという考え方をご存じですか?」と尋ねてみました。

 シャドウ・ワークとは、イヴァン・イリイチという哲学者が提唱した概念で、社会・経済の基盤を支えるために欠かせないけれど、報酬を受けない労働のことです。そこには家事や子育ても含まれます。

 旦那さんはご存じだというので、さらに「それなら、奥さんの賃金未払いの労働をどう評価されているのですか?」と聞くと、旦那さんは黙ってしまいました。旦那さんは目に見えるお金を家に持ち帰ってきているけれど、奥さんもお金で評価されるべき労働をしている。目に見える、見えないという部分を除けば、ふたりともきちんと稼いでいるということを、旦那さんは理解していなかったのです。

 奥さんは、「結婚前のあなたはどうしていなくなっちゃったの」とさらに攻め込んでいましたね。

CASE(5)「感情・意志の境界」の混乱
家族を亡くした悲しみが癒えない

 悲しみや怒りといったネガティブな感情を抱え続けるのは、とてもしんどいものですよね。相談者のように大切な人を亡くした場合も、自分の感情の行き場がなくなると、「感情・意志の境界」の混乱が起きてしまいます。

 しんどさから解放されるためには、自分の感情を吐き出すことがいちばんです。たとえば、僕のワークショップでは、深い悲しみを抱えている人たちを対象に、「投函しない手紙」というワークを行うこともあります。悲しみの原因となっている相手に向けて書く場合もありますし、しんどさを抱える自分に向けて書く場合もあります。