実際には、銀行は、誰かに融資を行うときには、その誰かの口座に融資金額を記帳するだけなのだ。つまり、銀行は融資を行うと決めた瞬間に、ゼロからお金を生み出しているのである。これをひっくり返せば、誰かが銀行から「負債」を背負ったときに、「お金」は生み出されるということ。要するに、我々が「お金」と呼んでいるものの本質は、「負債」だということにある。
そして、融資を受けた者が銀行に返済することによって「負債」を解消したとき、「お金」は消える。すなわち、お金というものは、銀行の融資によって生まれ、銀行への返済によって消えるのだ。
この「信用創造」という、初歩的ではあるが極めて重要な知識があるかないかで、日本経済が成長するかしないかが決まると言っても過言ではない。
その端的な例を、本書「第10講」から引いてみよう。
政治家や経済学者、あるいはマスメディアの解説者が「国債の発行は、将来世代へのツケ回しだ」と言うのを聞いたことがあるだろう。政府債務は、将来の税収で返済しなければならないから、将来世代へのツケ回しである。だから、財政赤字はできるだけ抑制しなければならないというわけだ。
しかし、お金は、銀行の貸出しによって生まれ、銀行への返済によって消える。
したがって、端折って言えば、政府債務を増やすということは、世の中に存在するお金を増やすということと同じである。だとすると、政府債務を将来の税収で返済するということは、その分だけ、お金をこの世から消すということになる。
だが、どうして、お金を消さなければならないのか? お金を消すことで、どうやって経済を成長させるというのか? 「政府債務を将来の税収で返済する」と思い込んでいる人々は、これらの問いにどう答えるのだろうか?
そもそも、アメリカやイギリスをはじめとする先進各国で、「政府債務を税収で返済」している国はなく、「国債の満期が来たら借換債を発行する」のが国際的な常識なのだ。そして、そのことになんら問題はないのである。
つまり、「国債の発行は、将来世代へのツケ回しだ」という者は、「お金とは何か」について分かっていないということなのである。
もちろん、これだけではまだ納得できない人も多いであろうから、詳しくは、是非、本書にあたってもらいたい。
いずれにしても、この政府債務を巡る言説は、30年も経済が成長しないなどということは「よほど基本的なところで経済政策を間違えなければ起きるはずがない」ことを証明している。
「お金とは何か」も知らずに経済政策を行なえば、経済が停滞するのも当然である。何も不思議なことはない。
“誤った言説”が国民を不幸にする
さて、本書の最終講(第18講)では、現下の金利の問題についても解説している。
ここのところ、長期金利が上昇傾向にあり、30年ぶりの水準に達している。
これについて、「市場の信認」という解説が幅を利かせている。高市政権の「責任ある積極財政」による財政赤字を懸念し、財政に対する「市場の信認」が低下しているというのである。
これに対する反論は本書に譲るとして、そもそもの疑問として、金利上昇を「市場の信認」の低下とみなす論者たちは、政府債務が累積し続けた「失われた30年」の間の歴史的な超低金利(下図参照、本書から転載)については、どう説明するのだろうか。当時は、財政に対する「市場の信認」が歴史的に高かったとでも言うのだろうか。
出所:日銀、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券
要するに、彼らは、いい加減な解説を分かったような顔をして垂れ流しているだけなのである。
しかし、だからと言って、侮ってはならない。
というのも、こうした解説に市場が影響されることがあるからである。
「市場の信認」という言説が間違っていようが、多くの人々がそれを鵜呑みにして一斉に国債を売り始めたら、長期金利は急騰するかもしれない。もっとも、金利が急騰しても日本銀行が適切に対処できることもあり、それは一時的なものにとどまるだろう。
だとしても、一時的な金利の急騰を見て、多くの人々が「市場の信認」という言説を確信し、積極財政を非難し始めれば、政治家や政策当局者は動揺し、積極財政を撤回せざるを得なくなるだろう。そして、我が国は、過去30年間の過ちを再び繰り返すことになるだろう。
誤った言説は経済政策を歪め、国民を不幸にする。
このような恐ろしい事態を避けるには、どうしたらよいのだろうか。
答えは簡単である。
国民の多くが、誤った言説を鵜呑みにしないように、正しい知識を共有するしかない。
だから、本書は重要な政策ツールであり、本書の読者は政策担当者になると言ったのである。
1971年神奈川県生まれ。評論家。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism"(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』(KKベストセラーズ)、『政策の哲学』(集英社)など。



