「失われた30年」は日本の思春期…中国・韓国への「敗北」を気にしても仕方ないワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

先行きが不透明で将来の予測が困難な時代、デジタル後進国と呼ばれる日本において、企業は「DX」をどう活かせば、新たなビジネスチャンスを掴むことができるのか。日本銀行や財務省で研究員を歴任し、日本経営を知り尽くした経営学者ウリケ・シェーデが解説する。※本稿は、ウリケ・シェーデ著、渡部典子訳『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

企業にとって「VUCA」時代は
ピンチにもチャンスにもなる

 私たちは今、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)とよく呼ばれる、きわめてスピードの速い世界で暮らしている。企業にとって不確実性は常に現実的な問題だが、かつてと違うのは変化と技術アップグレードの速さだ。製品ライフサイクルや新技術の採用スピードは速まっている。たとえば、アメリカでは1960年頃に登場したエアコンが一般家庭の90%に普及するまでに40年以上かかった。電子レンジの普及率が95%になるまでに要したのは1975年から約25年だ。ところが、携帯電話の普及率は1995年の10%から2010年には90%へと、わずか15年で急増している。スマートフォンに至っては2012年の35%からわずか4年で80%に達した。

 技術進歩が加速すると同時に、経済安全保障を脅かす世界的ショックも頻発しているようだ。パンデミック、紛争や戦争、多くの国で攻撃性やポピュリズムが高まっていることは、大きな不確実性をもたらしている。保護主義化や「デカップリング(経済分断)」の危険性が高まれば、これまで確立してきた世界の貿易秩序が脅かされる。それが現実になるかどうかはさておき、危機と未知の要素が増大しているのだ。

 しかし、技術リーダーにとって、これは好機でもある。たとえば、2022年にアメリカで「インフレ抑制法」が成立したが、そこには重要素材の生産をアメリカに戻すための減税措置が盛り込まれていた。その結果として現在、多くの日本企業がアメリカに進出している。たとえば、三菱ケミカルグループや日本ゼオンは2026年までにアメリカでリチウムイオン電池の正極・負極材などの生産拠点を置く予定だ。旭化成、日亜化学、住友金属も同様の動きを検討している。要するに、ある人にとっては脅威でも、別の人には機会になるのだ。機敏な競合相手はそうした間隙をうまく突いてくる。

DXの動向を知ることが
これからの企業は必須

 DXはVUCAショックの中でも最大の衝撃となりうる。日本のビジネスにおいて、自律型システムの登場は、高品質な製造から物流やサービスに至るまで長年培ってきたコア・コンピタンスの一部を置き換えることになりかねない。しかし、日本が技術的な複雑性において世界でリーダーシップを発揮してきたことを考えれば、新たな自律型システムでリーダーとなる大きなチャンスでもある。たとえば、日本はドイツとともに、次世代FA(編集部注/ファクトリーオートメーション)と、「インダストリー4.0」や「デジタルものづくり」に必要な、完全に接続され自動化された「デジタル現場」においてはすでにリーダーである。