『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第80回では、経営者の交代準備について解説する。
大株主のひと言「神として最高の●●を提供しようじゃないか」
アパレルメーカー・T-BOXは、製造責任者で取締役の片岩八重子(ヤエコ)らの努力により、新型極薄ファスナーを使った新商品「スーパーセクシー」の開発に成功する。
その成果を目にした創業社長の花岡拳は、いいアイデアや企画を現場の判断で実行していくように、「自分達で考えて自分達でやっていけ。この会社は…お前達のものなんだから…」とヤエコたちのチームに声をかける。
そんな花岡の発言に不安を覚えたヤエコは、2人きりの場で、言葉の真意を問いただす。
T-BOXの買収をもくろむ外資系ファンド・サンデーキャピタルと対峙するため、T-BOXの経営陣はあえて花岡の解任を議題とする臨時株主総会を開くことに決めた。
だがヤエコは、花岡が本当に社長の椅子を降りる気なのではないか、と。しかし花岡は「深読みしすぎだ」と回答。組織が大きくなっていく中で、「いつまでも花岡ケンが目立っているようじゃいけねえってことだ」と返した。
場所は変わって、競馬場のVIP席。創業以来T-BOXを支援してきた大株主・塚原為ノ介のもとに、サンデーキャピタルの福沢ウィリアム太郎が現れる。そして、今回の買収を競馬に例え、ゲームとしての緊張感を高めるために、塚原の株式の一部をサンデーキャピタルに売却するよう提案する。
普通に考えればとんでもない提案だが、この買収劇を神の視点で眺めたいという塚原は「神として、最高のレースを皆様に提供しようじゃないか」と、応じる意思を示す。だが同時に、「ちょっとでも私が気に入らないことがあったら、即、敗者になってもらう」と釘を刺すのだった。
社長の椅子を降りる前にやってくる、企業の「最大の決断」とは
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
経営者にとって、社長の椅子を降りることよりも難しい決断がある。それは、次の世代へのバトンを渡すということだ。
創業者は、会社の立ち上げから危機対応まで、数え切れない決断を重ねていく。その判断基準には経験や勘も必要で、さらには社員からの求心力や対外交渉力など、マニュアル化できない要素も多い。たとえ後継者を決めたとしても、重要な局面での判断を新社長ができなければ意味がない。
サイバーエージェントは、創業社長から次世代への移行を長期のプロセスとして設計した。創業社長である藤田晋氏は2022年春に「4年後の社長交代」を宣言。同時に社内から16人の後継者候補を選び、育成を始めた。そして約3年半の準備期間を経て、2025年12月に山内隆裕氏が社長に就任した。
藤田氏は当面の間、代表取締役会長として新社長の山内氏と並走。2029年に社長業の8割の引き継ぎ完了を目指すとした。社長交代はある日を境にくっきり切り分けるものではない。長い年月をかけて判断力を移す過程と捉えたわけだ。
花岡の言葉も同じだ。優れたアイデアを持つ人が、自ら判断し、実行し、その結果に責任を持つことで、次の世代を育てるという意思と言える。
サンデーキャピタルが塚原の持つ株式を取得したことで、T-BOXへの発言権を強める中で、舞台はいよいよ臨時株主総会の場に移っていく。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







