ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは「先延ばし」。どうしても手がつかないタスクを、どう動かせばいいのか。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

先延ばし

「特性のせい」で止めると、そこで思考が終わる

――本の中で、先延ばしを「ADHDだから」で片づけるのはもったいない、と書かれています。

なちゅ。:タスクが進まないとき、「自分はADHDだから先延ばししてるんだ」で片づけてしまうと、そこで思考が止まってしまうんです。

でも、よく見てほしいんですね。先延ばししていないタスクも、同時に存在しているはずなんです。

――たしかに、全部が止まっているわけではないですね。

なちゅ。:そうなんです。だったら問うべきは「その差は何なのか」です。「特性のせい」でまとめず、進むものと進まないものの間にある差に目を向ける。そこに正体が隠れています。

先延ばしの原因は「1つのボトルネック」に集約される

――その差は、どうやって見つけるのでしょう。

なちゅ。:私は「全ステップ分解」というやり方をしています。たとえば「部下の仕事へのフィードバック」を放置しているときなら、こうなります。

① パソコンを開く
② 部下から来たメールを開く
③ 添付ファイルから、資料をダウンロードする
④ 資料を読む
⑤ 資料に対して「いいところ」と「改善点」を見つける
⑥ 部下に連絡し、スケジュールを調整する
⑦ 会議室を予約する
⑧ 部下にフィードバックをする

――かなり細かいですね。

なちゅ。:このレベルまで作業を並べると、自分がどのステップで止まっているのかがはっきり見えてきます。しかも、引っかかっている正体はステップごとに違うんです。

「パソコンを取りに行くのが面倒」なのか、「部下と会話をしたくない」のか、「資料をどこから探せばいいかわからない」のか。

ボトルネックは、たいてい1点です。全体が面倒なのではなく、特定の1ステップが越えられないだけ、ということがほとんどなんですね。

正体は、意外と身も蓋もない

――なぜ、自分では気づけないのでしょう。

なちゅ。:そもそも私たちは、ひとつのタスクをものすごく大雑把にしか捉えていないからです。「あの件をやる」と塊で認識しているだけで、その中に何ステップあって、どこに引っかかりがあるのかまでは意識していない。

だから「なんとなく気が重い」「なぜか手がつかない」という、ぼんやりした感覚だけが残るんです。本当の問題は、この無意識のざっくりの中に埋まっています。

――引っ張り出してみると、どうなりますか。

なちゅ。:意識化してみると、意外と身も蓋もないことが多いですね。

さきほどの「部下へのフィードバック」であれば、本音は「内容がダメだけど、繊細なタイプの部下相手にやり直しを指示するのは気が重く、自分で直すのは時間がない」だったりします。かと思えば、「資料を読むのにドライアイがつらい」とか、まったくあさっての方向に理由が転がっていることもあります。

でも、正体さえつかめれば、もう対処できます。「相手を傷つけたくないから止まっている」とわかれば、「傷つけない伝え方をAIに考えてもらう」という具体的な作業に変換できる。角を立てないための実務はAIに丸投げすれば、心理的ハードルは一気に下がります。

1年先延ばしした仕事が動いたとき

――なちゅ。さんご自身は、どこで詰まりやすいですか。

なちゅ。:「手順が整理できない」「作業量が多い」「作業が細かすぎて面倒」の3点セットですね。

かつて、動画を大量に作るという膨大なタスクを1年近く放置したことがあります。そのときも分解してみて、「手順が細かくわかっていないのが原因だ」と分析しました。それでAIに「最短の手順書を作って伴走して」と指示して、具体的な行動を出してもらったら、一気に解決したんです。

「とにかく頑張る」では一向に進みません。まず全ステップを並べて、無意識に埋まっている引っかかりを意識の上に出す。それだけで、進む方向は見えてくるはずです。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。