ADHDの当事者であるなちゅ。さんは、約40年にわたって自分の失敗を観察・分析し続け、誰も教えてくれない「この世の暗黙のルール」への具体的な対策に落とし込んだ。それを一冊にまとめたのが、新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』(ダイヤモンド社)である。医療監修を担当したのは、児童精神科医の本田秀夫氏だ。誤解の多い発達障害の「本当のところ」を、本田氏に聞いた。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)

子どもの頃に目立つのは、圧倒的に男の子
――なぜ女性の発達障害は、これまであまり注目されてこなかったのでしょうか。
本田秀夫(以下、本田) 発達障害の特性がある人の割合は、以前は男性が女性を大きく上回ると考えられていました。でも、最近では、男女差はそれほどないと考えられています。ただ「見え方」が違います。
発達障害はもともと子どもの時期に気づかれるものですが、それはたいてい「大人の言うことを聞かない」という形で表面化します。
言うことを聞かない理由はいくつかに分かれます。ひとつは、そもそも大人の言うことを理解するのが難しい場合。代表的には知的障害です。もうひとつは、いわゆる社会常識を身につけるペースが遅かったり、こだわりが強かったりして、言われたとおりにするのが難しい場合。これはASD(自閉スペクトラム症)ですね。そしてもうひとつが、じっとしていられない、衝動的で待てないという場合。これがADHDです。
ただ、子どもの頃にこうした問題で目立つのは、圧倒的に男の子です。だから発達障害は男児に多いと言われてきたし、男児を中心に対応されてきたという背景があります。
一方、女性の場合は、そういうところが主たる問題にならないことが多い。たとえば自閉症でも、興味の偏りが男の子のように「いかにも独特」というものではなくて、「ちょっとオタクの人だったらこのくらいありますよね」というレベルにとどまることが多いので、目立ちにくいのです。
多動は軽くなるが、不注意は良くならない
――ADHDについてはいかがでしょうか。
本田 ADHDに関して言うと、症状が「多動・衝動」として出る場合と、「不注意」として出る場合があります。このなかでも、多動・衝動が目立たず、不注意の症状がメインという人は、男女ともに多いんです。実は僕もこのタイプです。ただ、多動が目立つ人しか、子どもの頃には診断につながりにくい。
ただ厄介なことに、ADHDの場合、多動よりも不注意のほうが大人になってから困るんですよ。多動はある程度良くなるけれど、不注意は良くならない。子どもの頃にはそれほど問題視されずに済んでいた不注意症状が、大人になると問題になることが増えるのです。
子どものうちは、忘れ物をしても親や先生がなんとかしてくれます。時間の管理も、周りが枠を作ってくれる。ところが大人になると、そうしたフォローが一斉になくなる。仕事の期限も、家の中の段取りも、全部自分で管理しなければいけない。子ども時代には目立たなかった不注意が、そこで一気に表面化します。その結果、大人になってからADHDと診断される人が激増しました。そして、そこでは女性が多いのです。
――「不注意」というのは、たとえばどんな形で出てくるのでしょうか。
本田 なちゅ。さんの本にも出てくる例で言うと、「身だしなみをきちんとしなさい」と言われてもできない、というのは、医師から見れば不注意の一形態です。細かいところに目が行き届かないんですね。だから、服のシワにも、袖口のテカリにも、自分では気づけない。本人はサボっているつもりが一切ないのに、周囲からは「だらしない」と評価される。
ちなみに、ASDの特性がある人は、どちらかというと大人になるほどルールをちゃんと守るようになる人が多いので、子どもの頃は大変だけど、思春期くらいになると好感度が上がっていく。反対に、ADHDの不注意症状が目立つ人は年齢が上がるほど好感度が下がりがちなのです。
うつや不安症などの「二次障害」を防ぐには
――大人になってから診断に至る道筋には、どのようなものがありますか。
本田 大きく2通りあります。「私は発達障害じゃないでしょうか」と自分から相談に来られるケースと、うつや不安症といった問題で来られて、「ああ、この人は発達障害もあるな」とこちらが気づくケースです。
前者の場合は、診察して「確かにそうですね」と確認できると、それだけで気持ちがラクになる方も少なくありません。長年の「なぜ自分だけできないのか」という問いに答えが出るからです。
一方、後者の場合は、発達障害の特性がうつや不安に影響していることも少なくありません。いわゆる二次障害と呼ばれるものです。
――対策はありますか。
うつになる手前で「この場面では、こういうふうに切り抜ければいいのだ」という具体的な指針が手に入っていたら、深刻な症状になることはなかったかもしれません。
なちゅ。さんの『生きづらい女の子が覚えておきたいこと』は、まさにそんな「指針」になる本だと感じました。ユーモアも入っていて、こんなふうに「開き直って生きていいんだ」という勇気ももらえる。発達障害の女性にとっては「人生観が変わる一冊」になっていると思います。
ちなみに、僕も大いに共感するところがあったので、ほとんどの項目は、男性にも有用だと思いますよ。
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。









