市内のホテルに3人で直行した。モロッコはルノーの北アフリカ事業の中心で、大きな工場もある。一方で日産の大きな事業はなく、販売量もルノーよりはるかに少なかった。
ホテルに着くとルノーのメンバーの出迎えを受けたが、彼らも私たちも目立たないように行動した。そのまま私はスイートルームの会議室に案内された。
会長のゴーンが待っていた。7月に日本で会って以来だから、久しぶりの対面だった。
私としては、ゴーンの予定に合わせてモロッコで時間をもらい、最重要案件であるルノーと日産の将来像をどう描くか、来年に向けた進め方を相談するつもりだった。
まず私は夏の間に調査、検討したロイヤル・ダッチ・シェル(現社名はシェル)の話をゴーンに報告した。長らく提携関係にあったオランダのロイヤル・ダッチと英国のシェルが2005年に合併し、1つの会社になった。ロイヤル・ダッチ・シェルの持ち株会社の在り方が、ルノーと日産の将来の参考になるかもしれないと考えていたからだ。
フランス側の構想にある持ち株会社をつくったとしても、日産の独自性を保てる仕組みがあるのかもしれない。そう期待したのだが、残念ながらロイヤル・ダッチ・シェルの事例はそうではなかった。
私はその報告を終えた後、懸案のルノーとの関係については、
「やはり経営統合を日本側が受け入れるのは難しいですね」
とだけ話した。するとゴーンは身を乗り出して、
「サイカワサン、ホールディングカンパニーの下ではルノーと日産は対等に扱われる。だから日産にとってこんな好条件はないんだよ」
と、より強く経営統合を勧めてきた。
西川廣人 著『わたしと日産 巨大自動車産業の光と影』(講談社)
「持ち株会社の下では対等といっても、時間の経過とともにルノーと日産の独自性は失われ、結局、最後は合併と同じことになると思いますよ」
「そうか……。サイカワサン、あなたは不賛成なんだな」
打ち合わせはわずか30分程度で終わった。
恐らくゴーン側の目には「いったいサイカワはどういうつもりなんだ。わざわざモロッコまでいつもと同じことを言いに来たのか」と映っただろう。
私としては日本側で起きていることを気取られないように、無駄を承知でそうするしかなかったのだ。







