社会全体に「怒られることへの恐怖症」がある
江川さんは、学生たちが自分の考えを発信できる力を持って、しっかりと「対話」のできる人になってほしいと願っている。
多くの企業が新入社員を受け容れているが、そこには、“世代間の価値観のギャップ”が存在する。昨今、上司や年長者は、ハラスメントを恐れて、対話をないがしろにしがちだ。
江川 職場において、上司と新入社員の価値観のギャップを埋めることは難しいでしょう。上司は、新入社員の良いところを見つける努力や、「求めすぎない」姿勢が必要かもしれません。私も、大学で学生たちと接しながら、彼ら彼女たちの「傷つきやすさ」を考えたうえで、発言や行動に気をつけています。
ハラスメントについて言えば、私が新聞記者だった時代は、「お前なんか辞めちまえ!」は当たり前に耳にする言葉だったし、キャップ(上司)が灰皿を投げつけたり、電話口で怒鳴って、その電話をバーンと床にたたきつけて、部下がそれを拾ったり……なんてこともありました。いまは、上司が「辞めちまえ」と言ったら、本当に若手が辞めてしまう時代。私たちが新入社員だった頃は、同期の仲間に、仕事の愚痴や文句を言ったりして我慢できたけど、最近はそうでもないようです。
かつて、あるインタビューで、江川さんは、「個人が、リストラや病気などで人生のレールからいったん外れると、軌道修正すること(生活を立て直すこと)が難しい」と語り、年を重ねた人でも再チャレンジできる社会を考えたいと語っている。
江川 「セカンドチャンスはない」と、誰もが考えがちな時代になっています。だから、誰かに怒られたり、失敗したりするのがとても怖い……若い人たちだけの傾向ではなく、社会全体に「怒られることへの恐怖症」があると思います。
私の授業では、新聞の投稿欄への投稿を学生の課題にしているのですが、ある学生の文章が某新聞に載りました。内容は、東京都知事選の某候補者へのシンパシーでした。しかし、それに対して、有識者が「こういう若い人たちが……」と、批判的なコメントを寄せたのです。私はそれを見つけ、投稿した学生に「反応があったよ!」と知らせたのですが、本人はまったく喜ばず、顔が青くなって、「(新聞紙上という)公の場で、偉い人に怒られちゃいました。私はもうダメだ」と嘆きました。「あなたは、その人の意見を読んで、どう思った?」と私が尋ねたら、「言われたことはもっともな部分もありますが……」と。だから、私は言いました。「反論があるなら、それを書いて、もう一回、投稿してみたら?」――結果、その学生の声を、同じ新聞が、また掲載してくれたのです。「偉い人に怒られて、もう、私はおしまいだ」で終わらず、「セカンドチャンス」を自分でつくり、新たな発見ができた。そういう経験が人生では大切だと思います。
まだまだ、ジャーナリストとして筆を置かない江川さん。その目線の先にあるものは?
江川 一記者として、いま、“地方ジャーナリズム”に関心があります。地方のメディアの方たちにいろいろな話を聞いたりして……これからの日本の社会では、重要な出来事は地方で起きる、地方で始まるという感じがしています。だから、どこかの小さな地域でいいので、その場所に住み、取材して、書き続けたい。いまはまだ、具体的な予定はなく、「できればいいな」という段階ですが。
相変わらず、私は調べることが好きですし、発信できれば、なおよし、です。表現するメディアは、新聞でも雑誌でも、ネットメディアでも何でもいいと思っています。










