上司が部下に、先輩が後輩に教える際、伝える側はすでに相手より高等な知識を持っているはずです。それをいかに上手に伝えるかが鍵なのです。
あなたの知識はこれからも向上していきます。しかし、今の知識を求めている相手にしっかりと伝えることができたなら、あなたはすでに素晴らしい指導者なのです。教える力のある人は、例外なく「伝える能力」を磨く努力をしています。
苦労人が名コーチになるのは
できない人の気持ちがわかるから
スポーツ界において、名プレーヤーが必ずしも名監督になるとは限らない、とよく言われます。むしろ、なかなか結果が出せずに苦しんだり、どうしても改善できずに悩んだりした苦労人の方が、優れた指導者になることは珍しくありません。
並外れたセンスを持ち、教わらなくてもなんとなくできてしまった「天才」は、上達できずにもどかしい思いをした経験が乏しいものです。「150km/hならいつでも投げられますよ」と平気で言えてしまうような人は、引退後に指導者になっても「投げるときにこの辺をグッとすればいいんだよ」「腕を思い切り振ればいいだけ」といったアドバイスになってしまうのかもしれません。
それができなくて困っている相手の気持ちや、できないときに人がどのような行動を取るのかを理解するのは、彼らにとって至難の業かもしれません。最初からできてしまった人は、できない人の感覚が想像できません。その結果、教えていてもイライラしてしまうことがあるのです。
『一流を支えるトレーナーの最強の教え方』(清水 忍、幻冬舎)
そう考えると、スムーズに習得できなかった人、工夫や努力を重ねてようやくできるようになった人の方が、指導者として成功する可能性が高いと言えます。
苦労を経験したからこそ、できない人のもどかしさに寄り添えるのです。できない人にとって、自分の気持ちをわかってくれる指導者ほど心強い存在はいません。
物事は表裏一体です。「できなかった過去」や「上達が遅かった日々」は、教える立場においては最強の武器になります。
もちろん、苦労せずにできてしまった人でも名指導者になれます。その場合は、なぜ自分が自然にできたのか、できなかった人と何が違ったのかを客観的に分析し、それを言語化して伝える努力が必要です。「わかっている」ことを言葉にする力が、指導の大きな武器になるのです。







