運転手を悩ませる
迷惑客の言動とは?

 冒頭と似たようなトラブルは、運賃をめぐっても起こる。乗客の指定したルートで目的地に向かったにもかかわらず、到着すると「いつもと運賃が違う」と指摘されるケースだ。

 タクシーの運賃は、純粋な走行距離だけで決まるわけではない。走行速度が時速10キロ以下になった場合、その時間を距離に換算して加算する「時間距離併用制運賃」という仕組みを採用している。

 信号待ちや渋滞の程度によって、同じ区間を走ったとしても運賃は変動するのだ。

 つまり、遠回りをしたわけではなく、同じルートを走っていても、その日の道路状況によって運賃が高くなることがある。

 ところが、こうした仕組みを説明しても、納得してもらえない乗客が一握りながら存在する。「いつもと違う」と責められた挙げ句、それ以上のやり取りを避けるため、差額を自腹で負担してしまうドライバーも出てきている。

 困った乗客を相手にしていると、タクシードライバーという業種そのものを下に見ている人が一定数いることに気づかされる。本人が口に出すことはなくても、その意識は、言葉遣いや態度の端々ににじみ出ている。

 例えば、スマホを耳に当て、電話をしながら乗ってくる乗客。彼らはタクシーのドアが閉まっても、スマホを耳から離さずに話し続ける。行き先は、あごの動きや指先で示すだけだ。

 正確な行き先が分からず、念のため確認すると「○○に行けと言っているだろ」と一喝。空気を読んで走らせると、今度は「どこに向かっているんだ」と怒られる。行き先を聞いても聞かなくても、お叱りを受けるというわけだ。

 つい最近も、電話をしながらタクシーに乗りこみ、車内でも通話を続け、そのまま支払いを済ませて降りていった乗客がいた。行き先はあごで指示され、運転手の私とはひと言も話すことはなかった。

 目的地までの車内では、電話の内容が嫌でも耳に入る。この乗客が熱中していたのは、同僚の悪口だ。仕事仲間が取引先とトラブルを起こしたようで、同僚は礼儀がなっていない、常識を知らない、と延々と続いた。

 運転席で聞いていると、その人自身も礼儀正しいとは言えない気がしたが、もちろんツッコミを入れることはできなかった。