「見守る苦痛」に耐えることが
人に任せることの本当のコスト

 頭では「任せなければいけない」と分かっていても、どうしても他人に仕事を引き継げない理由。

 それは、他人のアウトプットに対して「自分と同じ100点」を無意識に求めてしまっているからです。

「このグラフの色使い、ちょっとセンスがないな」

「メールの言い回しが、少し冷たい印象を与えるかもしれない」

 後輩がつくったものを見ると、どうしても自分のこだわりと照らし合わせてしまい、アラが気になりませんか?

 そして「やっぱり私が直そう」と手を入れてしまう。

 しかし、ビジネスにおいては、その資料が目的さえ達成できているのであれば、あなたの個人的なこだわり(100点)と、後輩がつくったギリギリの合格ライン(60点)との間に、成果としての差は存在しません。

 残りの40点は単なる自己満足であり、手放すべきプライドです。

 後輩に仕事を任せるということは、「自分とは違うやり方」「自分より低いクオリティ」を、あえて飲み込むという「感情の整理作業」に他なりません。

「私がやればもっとうまくできるのに」という気持ちをグッと飲み込み、最低限のラインを超えていれば、「ありがとう、これで進めよう」と承認する。

 その「見守る苦痛」に耐えることこそが、人に任せることの本当のコストなのです。

部下への教育コストを
惜しむことで失うもの

 一方で、仕事を抱え込む人は、「任せたいのは山々ですが、今は忙しすぎて教えている時間がありません」と言い訳をするでしょう。

 たとえば自分が毎回30分かけてこなしているルーチンワークがあるとします。

 これを後輩に教えるためには、マニュアルをつくり、横について指導し、ミスを修正するために、最初は3倍の1時間30分のコストがかかるかもしれません。

 超多忙な人にとって、この余分な1時間を捻出するのはかなり大変でしょう。

『仕事ができる人の超整理術』書影『仕事ができる人の超整理術』(山本大平 ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 しかし、その投資から逃げて今後も自分で30分の作業をやり続ければ、1年間(約240営業日)で、「120時間」という莫大なリソースをその作業に奪われ続けることになります。

 今、痛みを伴って1時間に投資するか。

 それとも、この先も年間120時間を搾取され続けるか。

 仕事における「整理」とは、常にこの「時間軸のトレードオフ」を突きつけてきます。

 目の前の忙しさを理由に教育や引き継ぎから逃げることは、未来の自分に対して高金利の借金を重ねているのと同じことなのです。