目の前の課題をどう解決するか。ビジネスでは当たり前のように求められる問いだが、大きな変化の時代には、それだけでは未来を捉えきれないことがある。『概念シフト』の著者・永山晋氏と佐宗邦威氏の対談から、「How might we」ではなく「What if」と問い直す重要性を示す。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・肱岡彩)
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「課題」と「解決策」の1対1では、捉えられない変化がある
永山晋(以下、永山):この本ではあまり全面には出していないんですが、僕のなかでは「『概念シフト』の敵は課題解決だ」という意識があるんです。
佐宗邦威(以下、佐宗):それはおもしろいですね。
永山:たとえばiPhoneもそうですし、生成AIもそうかもしれません。登場した当初に注目されていた価値と、いま僕たちが日常的に感じている価値って、かなり違いますよね。
iPhoneでいえば、いまでは日常生活のかなりの部分がこれ一つで完結してしまうほど、なくてはならないものになっています。
でも、登場した時点で「この商品は、将来これほど大きな価値を提供する」とすべて見えていたわけではありません。
そう考えると、僕たちが最初にこだわりがちな「この課題を、このソリューションで解決する」という1対1の関係は、実はすごく小さな話なのではないかと思うんです。
目の前の課題を解決すること自体が悪いわけではありません。課題解決は、その先にある、もっと大きな可能性にたどり着くための一つの経路なのかもしれない。むしろ、その先に広がっているものにどう触れられるかのほうが重要なのではないか、という問題意識があります。
AI時代には、「いまの課題」自体が変わってしまう
佐宗:AI革命が起きているいま、課題解決という考え方自体も少し変わってきている気がします。
時代そのものが大きく転換しているので、いま「課題だ」と思っていることが、これからもずっと課題であり続けるのかさえ、よくわからないじゃないですか。
だとすると、「いまある課題をどう解決するか」と考えるより、「いま当たり前だと思っている概念が、これからどう変わっていくのか」と考えたほうが、この時代には合っているのかもしれません。
永山:ただ、僕たちはやっぱり「課題」にかなりとらわれていますよね。
研究の世界でも、研究費を申請するときには「課題背景」を書きます。「ここにこういう課題がある。だから、この研究が必要だ」と示さないと、なかなか納得してもらえない。
僕自身、「とらわれているな」と思いながら書いているところがあります(笑)。
一方で、では課題を示さずに、どうやって人に説明し、納得してもらえばいいのか。それも簡単ではありません。
コンサルティングも、ある意味では課題解決の象徴のような仕事ですよね。そこから、もっと「妄想」に近いような、まったく別の未来へ人を連れていくには、どんな入り口をつくればいいのでしょうか。
「How might we」から「What if」へ
佐宗:僕は、そういうときには「問い」を変えます。
デザインコンサルティングなどでは、「How might we――どうすれば○○という問題を解決できるか」という問いを使って、プロジェクトを設定することがよくあります。
でも、その問い自体を「What if――もし○○だったら?」に変えるんです。
「どうすればこの問題を解決できるか」ではなく、「もし、こんな未来になったら?」と考える。
そうすると、必然的に「いまある問題をどう解決するか」という視点から、「こんな社会をつくるとしたら、何ができるだろう」という視点に移っていきます。
永山:おもしろいですね。「What if」に変えるわけですね。
もし、多摩川がドローンの大動脈になったら?
永山:具体的には、どんな問いを立てるんですか。
佐宗:まちづくりを例に考えてみますね。
たとえば、二子玉川の未来を考えるとして、「空き家問題をどう解決するか」「増えていく在宅介護のニーズをどう解決するか」という問いから始めることもできます。
でも、もっと未来を考えるのであれば、たとえば「もし多摩川沿いを、もっと生活圏内で仕事ができる場所にできるとしたら何ができるだろう」と考えてみる。
あるいは、「もし多摩川がドローンの大動脈になったら、僕たちの生活はどう変わるだろう」と問いを立ててみる。
そういう問いから想像を広げて、住民の方々が感じたことを集め、そこからまちづくりのヒントを探していく。そんなことをやっていました。
「何をやっているの?」と言われた取り組みが、その後リアリティのある現実に
佐宗:実は僕自身の仕事で、多摩川沿いにスノーピークと一緒にテントを立てて、「キャンピングオフィス」と呼んで、外で働くような実験もしていました。
コロナ禍の前で、「ワーケーション」という言葉が広がっていない2018年のプロジェクトでした。
そのときは、周囲から「何をやっているんだ」と笑われるようなところもありました。
ところが、その後、新型コロナウイルス感染症が流行し、働く場所についての考え方が一気に変わった。結果として、そこまで的外れなことでもなかったんですよね。
永山:なるほど。
佐宗:「What if」という問いについては、僕の著書の『直感と論理をつなぐ思考法』でも、妄想について書いたところで触れています。
いまある課題から始めるのではなく、「もし、こうだったら」と未来を置いてみる。そこから考えることで、いまの延長線上だけではない可能性が見えてくることがあります。
イリノイ工科大学デザイン研究科修了。
P&Gマーケティング部ブランドマネージャーを経て、ソニークリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立上げる。
戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。多くの企業・自治体や組織のイノベーション支援と、企業理念の策定と実装の実績多数。
著書『直感と論理をつなぐ思考法』『理念経営2.0』(ダイヤモンド社)、他多数。







