表情が変わった瞬間に
判断プロセスは始まっている

 この場面でのお客様の「熟考の表情」(編集部注/眉毛全体を中央寄りに下げ、眉間にしわを寄せる表情を、筆者はこう呼ぶ)は、けっしてネガティブな意味はありません。興味がなかったら無表情のままか、視線をそらしてその場から離れるような素振りを見せるでしょう。表情が変化したということは、お客様はすでに判断プロセスに入っているということです。

 その瞬間を逃さず、「何か気になる点はありますか?」「もう少し詳しくご説明しましょうか?」

 と一言添えてあげます。相手から積極的な質問が返ってきたら「わかってくれる人」「話しやすい店員さん」として認識されたことを意味します。あなたが「信用を勝ち取った」瞬間と言っていいでしょう。

 ここからは「売り込み」のフェーズです。丁寧に段階を経ていればここからはスムーズにいくはずです。

 距離を70センチ以内に縮めて、今日買うことのメリットや価格や機能、デザインの良さなど、アピールしたい内容を「興味・関心」の表情で伝えます。

 また商品の数に限りがあること、今を逃すと次の入荷がいつになるかわからないといった「お客様へのデメリット」な情報は「熟考」の表情で伝えます。距離が近い状態では、これらの情報がより現実的に受け取られ、意思決定が一気に具体化します。

 相手の反応を読み取り、的確な距離を確保することができれば、相手の意思を操ることは可能です。お客様からすれば、「下見に行ったつもりなのに思わず買ってしまった」といった感覚でしょう。

 接客における「距離」とは、単なる物理的な位置関係のことではありません。

 相手の心の扉を開く「鍵」なのです。

 一気に距離を詰めるのではなく「信用の階段」を一段ずつ、しかし確実に登ること。このプロセスを踏むことで、相手は圧力を感じることなく自然に購入へと導かれるのです。

数百万円の高級品を売った
店員は客の表情を見ていた

 私の知人に、職人の手作りパイプを販売していた人物がいます。パイプといっても高級品で、職人による一点ものは数十万円~数百万円もすることがあるそうです。素材や製造工程にこだわりがある世界で、マニアの間では人気ですが、素人には良し悪しがわかりづらい商品でもあります。