まず、「連絡は最短の経路で行うべきだ」と命じている。指揮系統に沿った連絡を強制する管理職は、「別の会社で働く」ことになる、と突き放した。

 最短の経路という言葉には、逃げ道がない。丁寧に報告したか。上司の顔を立てたか。そんな事情を足して、遅れを正当化する余地を与えない。問題を解ける人が隣の部署にいるなら、そこへ話を届ける。管理職の立場を尊重するためだけに、現場を待たせるなという要求だ。

 さらにメールは、担当者の連絡が上司、部長、副社長へと上がり、相手側の副社長、部長、上司を下って実務担当者に届く手順を批判する。

「誰もが直接話せるようにしなければならない」(マスク)

 役職者が列をつくっても、現場の疑問が解けるわけではない。連絡を取り次いだ回数を仕事の実績に数える人には、厳しい言葉である。

金を使う判断は厳しく握り
仕事に必要な連絡は直接させる

 マスクは社内ルールにも踏み込んだ。

「ある状況で、会社のルールに従うことが明らかにばかげているなら、そのルールを変えるべきだ」と書く。規則をつくった側にも修正を迫る指示である。部下に守れと言うだけなら、上司は自分の判断を問い直さずに済む。現場の不都合を受け止めて規則を変えるには、決めた側が間違いを認める仕事が要る。

 同じメールで、「100万ドルを超える支出」と「関連する支出が今後12カ月で100万ドルに達する可能性がある場合」は、自分が明確に承認するまで保留するよう求めている。

 金を使う判断は厳しく握り、仕事に必要な連絡は直接させる。マスクは責任を負う人間の役割を残したうえで、上司が情報を握って存在感を示す余地を削っている。予算の決裁権を持つことが、社員同士の会話まで許可制にする理由にはならない。

「私を通せ」という要求は便利だ。上司は責任を持って管理しているように見え、部下が何を誰に話したかも把握できる。連絡が遅れた理由は、手順を踏むためだったと説明できる。仕事の進み具合を問われているはずの人が、いつの間にか手順を守らせることを、自分の仕事にしてしまうのである。