ゴールドラッシュに沸く19世紀半ばのアメリカ。多くの人が一攫千金を夢見て「金」を追いかけるなか、リーバイ・ストラウスはまったく別のものを見ていました。それは、過酷な環境で働く人たちが抱えていた、まだ言葉にもなっていない「不便」です。なぜ彼は、誰もが見過ごしていた困りごとから巨大なビジネスを生み出せたのでしょうか。新しい仕事は、商品ではなく「人の状態」を見ることから始まる――。本稿では、書籍『ビジネスメイキング――売上と信頼が積み上がる「仕組みのつくり方」』から、その本質を象徴するエピソードを抜粋して紹介します。

誰もが「金」を見ていた、でもリーバイスだけは違った…巨大ビジネスを生んだ視点とは?Photo: Adobe Stock

 19世紀半ば、アメリカではゴールドラッシュが起きていました。人々は一攫千金を夢見て西へ向かい、どこで金が掘れるか、どれだけ儲かるかに目を奪われていました。

 ほとんどの人が見ていたのは「金」です。つまり、誰もが気づく、目の前の結果です。しかし、リーバイ・ストラウスが見ていたのは、金そのものではありません。金を求めて集まってきた人たちの「状態」でした。

 そこに集まった労働者たちは、過酷な環境で働いていました。硬い岩や砂に触れ続ける作業の中で、ズボンはすぐに破れてしまう。破れれば買い替えなければならない。買い替えれば費用がかかるだけではなく、購入のための移動や手間のせいで、その間は仕事が止まってしまう。つまり、彼が見たのは「儲けるチャンス」よりも、働く人たちの「不便の連続」だったのです。

 ここで重要なのは、労働者たち自身が、その不便を明確なニーズとして言語化していたわけではない、という点です。彼らは「丈夫なズボンをつくってほしい」と整理された言葉で求めていたわけではなく、むしろ「ズボンが破れるのは仕方のないこと」として受け入れていました。つまり、そこにあったのは、はっきりした要望ではなく、日々の作業の中に埋もれていた不便だったのです。

 この不便に目を向けたことで、テント用の厚手のキャンバス生地(のちにデニム生地)を使い、ポケットを金属のリベットで補強するという、かつてないほど破れにくい作業着が生まれました。

 大事なのは、単に新しい商品をつくったという話ではないことです。「破れる→困る→作業が止まる」という状態を、「破れない→困らない→作業が止まらない」に変えたことこそが本質です。

 ここで確認しておきたいのは、リーバイ・ストラウスは商品ではなく、働く人の状態を見ていたということです。労働者が欲しかったのは、ズボンそのものではありません。破れずに働けることです。もっと言えば、作業の手を止めずに済み、余計な出費が減らせ、毎日の疲れの中で余計な不便を抱えなくて済むことでした。見ていたのはズボンではなく、働く人の一日だったのです。

 この視点があるかどうかで、仕事のつくり方はまったく変わります。商品を見ている人は、ズボンの性能を考えます。人の状態を見ている人は、仕事の流れの中でどの不便を消せるかを考えます。ここに、ビジネスメイキングにも通じる決定的な違いがあります。商品を見るのか、人を見るのか。その視点の違いが、新しい仕事の入り口になるのです。