もう一つ、運について知っておいてほしい性質があります。成功した人の話は、割り引いて聞くべきだ、ということです。成功者は、たいてい「私はこうやって成功した」と、努力と工夫の物語を語ります。嘘をついているのではありません。本人も、そう信じているのです。

 でも、考えてみてください。同じ努力と工夫をして、うまくいかなかった人は、その何倍もいます。その人たちは本を書かないし、講演にも呼ばれない。だから世の中には、成功の物語ばかりが流通します。

 生き残った人の話だけを聞いて、法則を学んだ気になる。これは統計の世界で、昔から知られている錯覚です。ここでも、「算数の目」を忘れてはいけません。成功者の武勇伝は、面白がって聞けばいい。ただし、再現できる法則だと思ってはいけないのです。

「なんだ、それでは身も蓋もない。努力に意味はないのですか」

 たしかに、運そのものは動かせません。しかし、運との付き合い方なら、選べるのです。配られた札は変えられなくても、その札でどう打つかは、こちらの領分です。そして、札の打ち方を考えるために、僕がずっと使ってきたものの見方があります。

なるほどと思わせる
「成功の法則」の罠

 いましがた、成功者の証言は割り引いて聞いたほうがよい、と言いました。ここからもう一歩、踏み込んでおきたいことがあります。

 そもそも、万人に当てはまる「成功の法則」なるものは、この世に存在しない、ということです。

 書店に行けば、その手の本が、棚にずらりと並んでいます。こうすれば成功する、これが勝者の共通点だ、と。読んでいるあいだは、なるほどと思わせる力があります。ただ、あの手の法則を、僕はどうしても信用する気になれません。理由は単純で、法則と呼べるほど、再現がきかないからです。