多くの人は「巨額の政府債務残高」こそが異常値だと思ったのではないでしょうか。
 たしかに、この30年間にわたって、日本政府は財政赤字を出し続け、いまや1300兆円を超える膨大な政府債務が積み上がっています。そして、【図-3】を見ればわかるように、政府債務残高対GDP比で先進各国と比較すると、日本が突出して高いのは事実です。

 しかも、このグラフを見る限り、日本の財政状況は、2009年に財政破綻の危機に陥ったギリシャよりも悪いように見えるわけなので、これを「異常値」と言いたくなるのはよくわかります。

 しかし、「異常値」とは「通常の範囲から大きく外れた値」という意味ですが、私たちは、日本の政府債務残高は「異常値」とまでは言えないと考えています。

 なぜなら、各国ともに政府債務が存在していることには変わりがないからです。実際、【図-4】を見ればわかるように、基本的にはすべての国の政府債務残高は毎年増え続けているのです。

 つまり、政府が財政赤字を出し続けて、政府債務残高を毎年増やしていくのは、世界中の国が普通にやっているということにほかなりません。その意味では、日本の政府債務が積み上がっていること自体は、「異常値」というほどのものではないとも言えるのです。

日本経済に存在する、明らかにおかしい「異常値」とは?

 実は、日本経済には、政府債務残高よりももっと明確に「これは明らかに普通じゃない!」という異常値が存在するのです。

 それが、企業貯蓄率です。
 企業貯蓄率とは、ある国の企業部門の貯蓄金額が、その国の名目GDPに占める割合のこと(メモ参照)。つまり、企業部門が貯蓄している国の企業貯蓄率はプラスになり、企業部門が貯蓄せずに負債(借金)を増やしている国の企業貯蓄率はマイナスになるということになります。

企業貯蓄率の計算式

 そして、【図-5】でわかるように、日本の企業貯蓄率は、ここ30年近く平均するとずっとプラスであり続けているのですが、これは明らかに「異常値」なのです。なぜなら、他の先進国では、企業貯蓄率はマイナスなのが普通だからです。

【図-5】のアメリカやイギリスも、ときどきプラスになるときはあるけれど、基本的にはマイナスにとどまっています。このように、本来マイナスであるべき企業貯蓄率が、日本では30年近くもプラスを続けているというのは、どこからどう見ても「通常の範囲から大きく外れた異常値」というほかないのです。

 ここで疑問に思う方もいるかもしれません。
 というのは、企業部門が貯蓄できているということは、その国の企業の多くは黒字経営をしているということであり、企業部門が負債(借金)を増やしているということは、その国の企業の多くは赤字経営に陥っていることになるからです。
 だとすれば、企業貯蓄率がプラスの日本は「異常」なのではなく、企業貯蓄率がマイナスの他国のほうが「異常」なのでは? そう思う方がいるのは、もっともなことです。

 ここは重要なポイントなので、丁寧に説明しましょう。
【図-6】をご覧ください。これは企業の経営状況を「黒字企業」と「赤字企業」で対比させたものですが、貯蓄できるのは①のように所得よりも支出が少ない黒字企業です。②のように所得よりも固定費や人件費などの支出の方が多い赤字企業――これを“ガチの赤字企業”と呼びましょう――は、貯蓄をするどころか、銀行などから運転資金を資金調達しなければ経営を続けることはできません。このような“ガチの赤字企業”がやまのように存在する国はたしかに「異常」でしょう。

「儲かっているけれど、赤字を出している企業」とは?

 しかし、これは誤解です。
 普通の先進国の企業貯蓄率がマイナスなのは、“ガチの赤字企業”がたくさん存在しているからではなくて、「儲かっているけれど、赤字を出している企業」がたくさん存在しているからなのです。