「~してもらっていいですか」
現代人が多用する3つの理由
1つは「もらう」にあります。
「もらう」は、相手から何か恩恵を受けるという意味をもっています。多くの場合、恩恵を与えるのが上位者で、恩恵を受けるのは下位者です。
そのため、「もらう」という表現をしただけで、相手が上位者で、自分が下位者であるような関係を感じさせることができます。
つまり、「もらう」を使うことによって、相手を上位者と認める敬語を使っているような気分になるのだと考えられるのです。
2つめは、「よいか」という相手に許諾を求める表現です。
許しを相手に求める場面では、許しを与える側が上位者、許しを求める側が下位者の立場となります。「もらう」と同じ構図です。「よいか」という表現を使うことで、相手を上位者として立てる気分、つまり敬語を使っているかのような効果があるのです。
3つめは、現代の敬語の軽さです。
現代の敬語は、客と店員のような役割による臨時的な上下関係にも適用されます。つまり、昔のような身分社会とは異なり、上下関係は固定的なものではないし、そのためか、敬語を少々まちがっても大問題は起こりません。それゆえ、敬語は “軽い”ものでよいと意識していると思われます。
要するに、敬意を示さない「もらう」「よいか」なのに上下関係をイメージさせる力があり、敬語に代わる機能を果たしているわけです。
ただし、敬語ではないので敬意が軽いわけですが、その軽さが、現代の敬語における好みの“軽さ”にちょうど合っているのだと考えられます。だから、「~してもらっていいですか」の使い勝手がよいということで、根強い人気があるのだと考えます。
でも、それでいいのでしょうか。もちろん、みんなが使っていて、文句を言う人が少ないのだから悪いとは言えません。
しかし、みんなが使っているからこそ、あえて「~してください」「~してくださいませんか」を使うことをお勧めします。
これらの表現には、尊敬語「くださる」が含まれていますから、依頼表現としてより整っています。「してほしい」という気持ちがきちんと表現されているのです。
依頼された身になってみてください。心のこもった言葉で依頼されたほうが、当然、依頼を引き受けたくなります。依頼を実現するためには、みんなが中途半端な依頼表現しかしない今こそ、「~してください」「~してくださいませんか」を使うべきだと言えるのです。
佐竹秀雄・西尾玲見(2005),『敬語の教科書』,ベレ出版
佐竹秀雄(2023),謙譲表現に見る敬語認識の変化 -敬意の表示から丁寧さの重視へ-,Japio YEAR BOOK 2023
佐竹秀雄(2024),敬語の近未来予測─敬語システムの崩壊─,武庫川女子大学言語文化研究所年報34







