「静かな定着」の若手は、この3つのうち少なくとも動機は高い状態にあると考えられるため、それが乏しい「静かな退職」の若手よりも、投資が成果として表れやすい。これは人情や浪花節の世界の話ではない、経営の問題である。

 目を向ける先が間違っていたのだ。「静かな定着」の若手こそが、自社の人的投資ポートフォリオにおけるユニコーン――つまり、まだ可視化されていないがその潜在力は高い、有望な人的資本投資先――なのだ。「Z世代は○○だ」「最近の若者は」「静かな退職」といった、バズ・ワードを組織人材戦略の中核に位置づけてはならない。

 バズ・ワードは飲み会の場で懇親を深めたり、見知らぬメンバーとのアイスブレイクで用いたりすることが正しい使い方である。現代の組織人材戦略に必要なことは、ひとりひとりの社員に向き合う姿勢と、そのための視点である。そしてひとりひとりと向き合うために統計や自社のデータを収集し分析するのだ。

 そう、注目する相手が違うのではないか。あなたが自社の若手のことを考えたいとき、まず注目すべきは、放っておいてはいけないのは、「静かな退職」をしている若手ではなく、「静かな定着」をしている若手である。

「静かな定着」をしている
若手社員の特徴とは

 若手の在職の実態は職場との相互作用によって――なかでも、「辞めない理由の認知と共有」を通じて――形成されるものだという、現代の“定着”の全体像を示した。

 それは、職場や組織のありかただけで形成されるものでも、若手個人の考え方の問題だけで形づくられるものでもない。組織に個人が埋め込まれていることもあれば、個人(のキャリア志向や生活スタイル)に組織が埋め込まれていることもある。

 繰り返すが、注目すべきは全体の35%を占める「静かな定着」である。このグループは在職先に高いコミットメントを持ちながらも、辞めない理由を語らず、共有もしていない。企業からはその定着の質が見えにくく、eNPS(編集部注/職場への愛着や信頼を数値化するための指標)が高いことからマネジメント上も問題がないと見なされ、“放置されがち”だ。