だが、「静かな定着」は、組織として安心・安全な状態ではない。むしろこのグループには、いま最も注意深く向き合うべき2つの意味がある。

 ひとつは、職場に対して「言葉にはしていないが、納得して残っている」というポジティブな側面だ。「静かな定着」は、「見える定着」に比べれば最良ではないが、若手全体のなかでは決して悪くない定着状態にあると言える。

 と同時に、「静かな定着」にはもうひとつの興味深い特徴がある。それは、「現在の仕事・職業生活に対して不安を感じている」割合が、“低い”ことだ。不安を感じていないのであれば良いのではないか、とも考えるところだが筆者の見解は別にある。

「見える定着」に比べてエンゲージメントなどに関するスコアはやや低い水準にある一方で、図表20を見るとわかるように、「静かな定着」層は4グループのなかで最もキャリアに関する不安を感じていないのだ。

 満足しきってはいるが不安でもない。これをどう考えるべきだろうか。

若手の「静かな退職」を恐れる企業が知らない、もっとずっと大切にするべき人材本書より転載

「静かな定着」に垣間見える
「納得」と「停滞」の並立

 図表20に認められる4グループ間の回答傾向を興味深く、「見える定着」の若手が最も不安に感じていないわけでも、逆に「静かな退職リスク」の若手が全項目で最も不安を感じているわけでもない。

 こうしたなかで、唯一共通することが、「静かな定着」の若手が全項目において最もキャリア不安を感じる割合が“低い”ことである。そこには、「在職に納得していて不安がない」という積極的な面と、「不安を感じないために豊かな職業生活のためのもう一歩が踏み出せない」という消極的な面とが併存しているのではないか。

『あの若手はどうして辞めないのか』書影『あの若手はどうして辞めないのか』(古屋星斗、朝日新聞出版)

 筆者は、ここに「静かな定着」の持つ両面性――つまり、「言葉にはできていないが、在職を納得している」という面と、「不安を感じない安定的な状況にあり、次の一歩が踏み出せないためにキャリアに関する進捗度が高まりきっていない」という面が共存している状況――が表れていると考える。

 静かな定着に垣間見える、「納得」と「停滞」の並立。つまり、彼ら彼女らは、粛々と、黙々と仕事をしていくなかで定着の熟度は高まっているが、安定しすぎているために、そのポテンシャルを発揮できていない若手たちなのだ。

 言い換えれば、若手の「静かな定着」は、明確な伸びしろを有する組織の潜在的人材力でもある。と同時に、停滞から抜け出せずそれ以上に「辞めない理由」が育たなかったとき、その若手は「静かな退職リスク」へと移行する――すなわち、「辞めない理由」を共有しないままに仕事へのエンゲージメントが下がる――危険性がある。