最大の参入障壁が
「現場の暗黙知」

 こうした数十年にわたる運用・保守の記録、機器故障の予兆、現場の熟練者が培ってきた肌感覚のような知恵は、ネット上のテキストデータをいくらクロールしても手に入りません。

 米中テック企業がどれほど巨額の計算資源を投じても、この「泥臭い現場のデータと知見」をゼロから生み出すことは不可能なのです。

 AIモデルそのものは、今後ますます低価格になり、世界中どこからでも利用できるようになります。だからこそ、逆説的に「AIの外側にある資産」である自社データ、物理的な設備・製品、現場のノウハウの希少価値が極限まで高まるのです。

 これは、日立グループに限った話ではありません。製造業、電力、物流、建設、インフラなど、世界屈指の品質を誇る「現場」を長年磨き上げてきた日本企業全体に共通する、唯一無二の勝ち筋だと私は思います。

 つまり日本が目指すべきは、米中と巨額の資金力で競い合って「世界最高性能の基盤モデルを単体で作ること」ではありません。

 日本がやるべきことは、世界最高水準のAIを冷静にコモディティとして使いこなし、「基盤AI×自社データ×現場の知識×ハードウェア製品・設備×IT」を高次元で統合して、現実世界の課題を解決するソリューションとして世界へ展開することです。

 AIがコモディティ化するこの激動期こそ、日本企業が再びグローバルの主役に躍り出る最大の勝機があると思います。もちろん、これに気付いた人のやり方次第ではありますが……。

日立製作所とアンソロピックが提携、「米国AIの軍門に降った」と思う人が知らない事実