こうした場面に立ち会うたびに、私は思います。なぜ、もっと早く伝えなかったのか。なぜ、元気なうちに言葉にしなかったのか、と。

 しかし、それは他人事ではありません。私たちも同じです。感謝の気持ちを持っていても、それを言葉にすることは意外に難しい。「言わなくても分かっているだろう」「今さら恥ずかしい」。そうした思いが、その時に発すべき言葉を胸の中に飲み込ませてしまうのです。

 長年会社人間として生きてきた方々にとって、感情を言葉にして表に出すことは苦手なのかもしれません。特に、昭和平成の時代を生きてきたビジネスパーソンは、「男は黙って働くもの」「口に出さなくても、家族のために働いてきたじゃないか」と思い、そうした以心伝心を前提にした阿吽の呼吸的な価値観の中で生きてきたのですから。

 しかし、言葉にしなければ、相手に伝わりません。どれほど心の中で思っていても、それを口にしない限り、相手には届かないのです。

 最期の瞬間に「言えなかった」と後悔するのではなく、今日、今この瞬間に伝える。それが、後悔のない人生を送るために、最も大切なことなのです。

 人生の最期に残るのは、成果でも地位でもありません。人とのつながり、そして、そのつながりに対する感謝の気持ちです。それを誠実に言葉にして伝えること。それこそが自分の人生を心豊かにする最も確実な方法なのです。

「5つの後悔」は僧侶が
聞いた言葉と重なる

 オーストラリアの介護人、ブロニー・ウェアは、長年にわたり終末期の患者に寄り添ってきました。そして、彼女が患者たちから聞いた「人生の最期に語られる後悔」をまとめたのが、『死ぬ瞬間の5つの後悔』(仁木めぐみ訳/新潮社)です。

 この5つの後悔は、私が僧侶として立ち会ってきた臨終の場で聞いた言葉とも、驚くほど一致しています。国や文化を超えて、人間が人生の最期に感じることは、共通しているのです。

 第1の後悔は、「自分自身にもっと忠実に生きればよかった」というものです。