トランプ氏のFRB批判には長い経緯がある。第1期政権時代(2017~2021年)から、自身が推進する減税や規制緩和による景気刺激策に冷や水を浴びせる利上げに対し、激しい不満をぶちまけてきた。自ら議長に指名したパウエル前議長に対しても「利下げが遅すぎる」「無能」「国家の敵」と罵倒し、解任の可能性を公然とちらつかせるなど、中央銀行の独立性を揺るがす圧力を加え続けた(図表1)。

図表1:トランプ大統領によるFRB批判図表1:トランプ大統領によるFRB批判 拡大画像表示

 2025年に大統領に返り咲いた後も、その姿勢は変わらない。トランプ氏は「米国の信用力は世界で最も高く、金利は1%以下であるべきだ」と主張し、世界最低水準の金利を享受すべきだとしてFRBに大幅な利下げを要求してきた(図表1)。また、パウエル前FRB議長をはじめとしたFRB高官に辞任を要求するなど政治的圧力を強めた。トランプ氏にとって、高金利によるドル高や借り入れコストの上昇は、景気拡大を阻む最大の障害と映っている。

ウォーシュ氏が見せる巧みな間合い
「政治の責任論」を巧妙に回避

 もっとも、ウォーシュ氏がFRB議長に就任後は、トランプ氏はFRBそのものを批判しつつも、ウォーシュ氏個人への直接的な攻撃は避けている。トランプ氏は、FRB理事会を「政治的で敵対的」とみなす一方、「ウォーシュ氏は理事会のコンセンサスに合わせただけだ」と擁護する姿勢を維持している。自らが指名した「極めて優秀」な議長という看板を守りたい政権側の思惑が働いている。

 一方のウォーシュ氏も、政権との正面衝突を避けるために巧妙な立ち回りを見せている。現在の米国のインフレ圧力には、トランプ関税やイラン攻撃に伴う原油高といったトランプ政権主導の政策が強く影響している。しかし、ウォーシュ氏はそうした政治的な責任論には言及せず、経済・物価の基調的判断に加え、「金融環境の緩さ」も政策判断の根拠に据えている。