ウォーシュ議長は会見で「インフレトレンドは有意に改善しておらず、金融環境も引き締まっていない」と述べ、利上げを「緩和の巻き戻し」と位置づけた。インフレ懸念や米財政赤字への警戒感の大きさが意識される結果となり、米10年物国債利回りは一時5.3%台へ跳ね上がり(図表2)、長期金利には依然として高止まり圧力が残る。
高まるトランプ政権とFRBの緊張関係
他国への「金利抑制要求」に波及も
FRBが追加引き締め姿勢を崩さない中、米国の長期金利の高止まりは、今後のトランプ政権とFRBの関係に一段と強い緊張感をもたらす公算が大きい。住宅ローン金利の再上昇や企業の資金調達コストの増加などによる実体経済への悪影響が顕在化すれば、いくら政治的立ち回りに長けたウォーシュ氏であっても、利下げを求める政権からの批判をかわし続けることは困難になる。
さらに警戒すべきは、この米金利高の余波が海外へと飛び火するシナリオである。米国の長期金利上昇に危機感を募らせるトランプ政権は、米財務省による超長期国債の買い戻し(バイバック)などの市場介入による需給改善を試みたが、市場の信認を得られず効果は限定的にとどまっている。
そのため、トランプ政権が米国債利回りを押し下げる目的で、主要国に対して安定的な財政・金融運営を要求する動きを強める可能性がある。実際、ベッセント米財務長官は、日本の過度な円安や国債売りが米国債市場に波及することを警戒し、日本側に財政拡張の抑制や日銀による適切なインフレ対応を非公式に促しているとされる。欧州に対しても、G7などの枠組みを通じて財政規律の遵守を求める圧力を強める可能性がある。
FRBが独立性を掲げてインフレ退治を進める一方で、トランプ政権が外交や国際金融の場を通じて長期金利の抑制を試みる。米国の金融引き締めと「トランプ・リスク」が入り混じる複雑な状況は、今後の米国経済だけでなく、日本をはじめとした海外の金融政策や市場環境を大きく揺るがす火種となりそうだ。
(伊藤忠総研上席主任研究員 高橋尚太郎)







