**うちの会社にはいないタイプ
2日前、高山には経営企画室配属の正式辞令が発令されており、明日から経営企画室に勤務ということになっていた。経営企画室は数日前に発足していた。
「私、しきがわでは、高山さんより先輩なんですよ」
人なつっこい笑顔で、相澤は言った。専門学校を卒業してしきがわに入社し、店舗勤務のあとに総務部に配属された。入社は高山より早いが、なにしろ高山が、大卒かつ、2浪1留のため、高山よりも年下の27歳だった。
「高山さん、まだ、伊奈木室長には会ってないでしょう?」
「明日、はじめて会うんだけど。どんな人?」
「なかなか、うちの会社にはいないタイプですよ」
「どんなふうに?」
高山と相澤が話をしているところに、沼口が現れた。
「お、2人とも、えらい早いな。まだ6時よりだいぶ前だろ」
沼口は、しきがわの店頭にいる一般販売社員は絶対に着ない、黒のタイトなシルエットのジャケットを脱ぎ、黒茶のステッチの入ったトレボットーニカラーの白いドレスシャツの姿になった。
「俺が、相澤さんに声をかけたんだ。お前が配属の前に事前情報を聞きたいだろうって思ってね」
沼口は、オロビアンコの鞄を空いている椅子に置いて相澤の隣に座った。
「相澤さんは総務部にいたんだが、本社で皆、困ったことがあると相談しにいく頼りになる人なんだ。多分、社長の指名で今度の経営企画室の室長付になったんだと思う」
沼口は、「かけつけ三杯だ」と言って、3人分の生ビールとグレープフルーツハイを頼んだ。
高山は、「それちょっと違うんじゃない」と突っ込みを入れたが、相澤がくすっと笑ってくれたことが少しだけ嬉しかった。