**大胆なリストラの話

「相澤さん。新しく来た室長のこと、高山に話してやって」

「伊奈木さんっていう方なんですけど、日本フラッシュソーダ社の人事部長をやっていたんですって」

「へー、世界レベルで一流なんだな。俺も会うのが楽しみだな」

 沼口は、興味津々な様子だった。

「お2人は、1年ほど前に新聞の1面にも出ていたフラッシュソーダの世界的な人員整理の話はご存じ?」

 相澤の問いに高山は、「いや、僕は知らない」と答えた。

「俺はその記事を覚えているよ。確か世界中で、何千人規模で社員を短期間でリストラしたっていう話だったよな」

 沼口が答えた。

「そうなの。世界的な天候不順で、ヨーロッパとアメリカの冷夏のせいで炭酸飲料が全く売れなかった年だったの。冷夏だろうがなんだろうが、売上が落ちれば、そのまま利益が下がり、配当も減ってしまうでしょ。あの会社はロバート・ウォートンって人が筆頭の取締役になっていて、年俸何億円っていうレベルの高給のCEO、COOたちは、利益、つまり配当を出すのが使命。結果として、執行責任者たちは、何のためらいなく人員整理でもするんですって」

「夏が暑くならないからって理由で、会社をクビにされたらたまんないよな」

 ビールを飲みながら高山は言った。

「その年、日本は好調だったのだけど、人員削減目標が米国本社からあたえられて、一方的に、当時750人ほどいた日本フラッシュソーダ社の社員を2ヵ月で500人にまで減らすように言われたんですって」

「えっ、社員の3分の1をいきなり減らすの? そんなことしたら、仕事が回らなくなるじゃない?」

「飲料のビジネスって、もともと、利益率が高いから、皆、ゆったりと仕事をする文化だったんですって。そこに突然、人員整理を行うことになったの」

「でもさ、それまでも天候不順なんてことは、何度もあったんだろ? なんで急に、その時にそんな大幅な人員削減をやったのかな?」

「多分、大株主が代わったからだろ」

 高山の疑問には沼口が答えた。

「どういうこと、それ?」高山は尋ねた。