**大規模な人員整理の指示を逆手にとる

「とにかく、急に社長が来て『誰もいないから君が来てくれ』って。それで、私が打ち合わせのノートをとったの」

「社長は、相澤さんならば、IRの仕事柄、会社の機密事項も正しく判断して扱えると考えたんだろうな」

 相澤がグレープフルーツハイのグラスを空けたところで、沼口は3人分の飲み物を追加オーダーした。

「誰もチェックしなかったのかね? そんなとんでもない金額を支給するっていう案そのものを」

 沼口が聞いた。

「社長もヘッドハンターの人に同じことを尋ねていたわ。でも、ばたばたしてしまっている時の外資系企業ってそういうことが起こってもおかしくないんですって」

「そんなものかね」 

 沼口がつぶやいた。

「破格の金額だということにこの人たちが気づいたのは、正式に社内発表されたあとで、すでに撤回は不可能な状態だったって。短期間で大規模な人員整理をするようにという無茶な指示を逆手にとったわけね」

「でもそんなことしたら、伊奈木さん本人もただではすまないんじゃないか?」

「そう。で、全て自分がやるべきことが完了したところで、事の責任を取るって言って辞表を出して辞めたの」

 そんなことをする人が本当にいるんだ……。高山には、自分と違う世界の人の話に思えた。

「フラッシュソーダ社を辞めたあと、たくさんの大手外資系やオーナー企業から来てほしい、会いたいという話があったそうよ。でも、その気がないと言って、ほとんど話も聞かずに、1年ほどは何もしていなかったんだって」

「よく、うちの会社に来てくれたな」沼口は言った。

「ほんと。どうしてなのかしら。私にもわからないけど」

 高山は、その理由を知りたいと思った。
                           (つづく)

※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は(月)~(金)に掲載いたします。


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