半沢を「交渉の達人」にした
魔法のキラーフレーズとは?

 『半沢直樹』7話までの中で、半沢はさまざまな相手を説得し、協力を求め、ともに戦ってきました。

 毎週欠かさず見ている私は、そんな彼が相手を説得するときによく使っている言葉、ポイントとなるキーワードがあることに以前から気がついていました。

 それは、「我々」という言葉です。

「我々が勝つには~」
 「我々に残された道は~」
 「我々がこれを乗り切るには~」

 たとえば第7話。伊勢島ホテルの湯浅社長に、会長が所持する絵画や土地を売却してくれるように頼むシーンで半沢はこう言いました。

「そこに賭けるしか、我々が生き残る手立てはありません

 「私」ではなく、「我々(私たち)」。「I(アイ)」ではなく「We(ウィー)」。この短い言葉に込められているのは、あるひとつの暗示です。

私とあなたは一蓮托生の仲間ですよ。だから一緒に戦いましょう。

 彼は「我々」ということで、相手にそう暗示をかけているのです。

 人は弱い生き物です。どんなに強くて決断力のある人でも、重要な決断を下す際には、本当に自分の決定は正しいのか、間違ったことをしているのではないか、会社に損出を与えるのではないか、部下や同僚を傷つけるのではないか――と不安に駆られてしまうものです。

 読者のみなさんも、何か大きな決断に迫られたとき、答えは決まっているにもかかわらず、それでも誰かに相談してしまう、そんな経験があるのではないでしょうか?

 そのとき、あなたは決して「答え」がほしかったわけではなかったはず。

 出すべき答えはもう決まっている。けれど、誰かに背中を押してほしい。誰かに自分の決断を聞いてほしい、そして「私もそう思います」と言ってほしい――。

 そう、半沢の「我々」には、そんな相手の決断を促す効果が隠されていたのです。