自社以外の企業や人民解放軍への在籍年数分まで補償?
さて、経済補償の支払いの基礎となる勤務年数が、中国の子会社におけるX1年だけに限定されるのであれば、日本企業も納得できるでしょう。しかし、近時、1. 国有企業との合弁会社(中外合資経営企業)や、2. 現在は日本企業が100%出資する中国の子会社(外資企業。独資企業という通称も使用される)になっているものの、以前は国有企業との合弁会社であった場合に、経済補償の支払いの基礎となる勤務年数の算定法は驚くべきものです。
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右の図表をご覧ください。
(A)中国の子会社における勤務年数X1年だけでなく、(B)その従業員が合弁パートナーである、または過去に合弁パートナーであった国有企業からの転籍者である場合、当該国有企業における勤務年数X2年を加算し、また(C)それ以前にも別の国有企業(複数である場合、複数の国有企業)における勤務年数X3年がある場合、これも加算し、さらに(D)それ以前に人民解放軍における勤務年数や下郷(農村部における強制労働)による勤務年数がある場合、その勤務年数X4年も加算することを強制すると解釈し得る根拠となる法令と司法解釈が登場しました。しかも実務的にも日系企業が撤退するにあたり経済補償の計算を「(X1+X2+X3+X4)×Y」とするように地方政府から強い指導を受けるなど、受諾せざるを得なくなる事例が複数登場しています。
当然のことながら、中国の子会社が(B)ないし(D)を受諾せざるを得ない場合、合弁パートナーである、または過去に合弁パートナーであった国有企業以外の国有企業からの転職者から、「俺たちも同様の待遇を認めてくれ」という主張が出てくることになるはずです。こうして中国の子会社の古参従業員数が数千人から1万人単位にのぼれば、経済補償金額は天文学的水準に達する可能性があります。
そして、いったんこのような経済補償を負担すれば、グループ企業の場合、グループ研修等を通じて従業員同士の交流の機会が多いため、情報が他のグループ企業に伝播して、そこから撤退する場合にも「平等」の名のもとに同種要求を従業員および労働組合から突きつけられる可能性が高まります。