「発電コスト的に原発ゼロは無理」は嘘?
合理性・効率性を踏まえたエネルギー政策を
本書は、あの節電の恐怖に脅かされた2011年7月に出版されたことを念頭にお読みください。
(電事連の)発電コスト試算では、稼働率をほぼ原子力と同水準として、石油火力は一〇円と、原子力の五・七三円(稼働率は幅をもって示されているので稼働率八〇%水準として試算調整)の二倍弱となっている。そして、この稼働水準で、石炭は五円、LNGは五・八円となる。(42ページ)
石油火力は高く出ています。しかし、火力の燃料別割合で加重平均すると五・九六円となり、じつは原子力と変わらないことを指摘します。この2年間で実際に燃料費が上昇しているのは円安のためです。
原子力発電には、単価コスト計算外の多額の政府補助金が投入されている。原子力発電の立地支援の膨大な政府支援金、高濃度核燃料のリサイクルや廃棄物処理に関する政府負担金はなどがそれだ。(45ページ)
つまり、コスト上も合わないというわけです。
幼稚産業的な、将来的に基幹産業として独立成長していくよう潜在性があったのなら、政府の手厚い支援も合理性を持つだろう。しかし、核廃棄物の処理が基本的に永遠に続く性質のものであることを想定するだけでも、そうした幼稚産業保護の基準を満たし得ないことは明らかだ。
(46ページ)
著者は、経済学的に費用と便益、そして合理性と効率性をもって分析してくれます。その結論は、原発は社会経済システムとしてまったく機能していない、というものでした。今後は電力自由化が必要だとしていますが、政府も電力自由化法案を来年の国会に提案します。
本書の出版から2年4ヵ月経過しました。汚染水問題と原発再稼働に目を奪われがちですが、著者による原発問題の経済学的帰結を読むと、小泉元首相が主張するように、「原発ゼロ」をスタート地点にし、経済学的合理性をもってエネルギー政策を再構築したほうが日本の未来のために効率的だと思えます。
◇今回の書籍 32/100冊目
『原発に頼らなくても日本は成長できる』
3.11後の脱原発論議を経済学の視点から検証し、原子力発電なき経済再生の処方箋を示す。原発は、じつは効率面でも環境面でも優位性を持たない。それがなぜ推進されたのか、代替エネルギーをどこに求めるべきか、エネルギー大転換で迫られる経済の新しい成長モデルとは…気鋭の経済学者がその方程式を読みとく。
円居総一 著
定価(税込)1,575円
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