米Wolfram Research社の開発による新型検索エンジン「Wolfram|Alpha」が、5月18日に一般公開された。“Googleキラー”との前評判が高かった同サービスだが、どうやら、Googleとは別種の検索エンジンと考えたほうがよさそうだ。

 例えば“Barack Obama”を検索してみる。すると生年月日と出身地程度しか表示されない。最新のオバマ大統領の動向や発言といった、具体的なニュースを知りたければGoogleのほうが圧倒的に使い勝手がいい。一方で“McDonald's hamburger”と入力してみると、ハンバーガー一個当たりの総カロリー数から脂肪やコレステロール、ビタミンやカルシウムの量などがずらりと一覧表示される。

「Wolfram|Alpha」トップページ。「数学」や「科学」の他にも「音楽」「本」「スポーツ」といったジャンルにも答えてくれる。

 また、トヨタとGMの財務諸表を比較してみるといったことも可能だ。検索フォームに“GM,TOYOTA”と打ち込むだけで、最新の株価からバランスシート、損益計算書、キャッシュフロー計算書などが、図表とともに明示される。直近データだけでなく、ひと月前や過去5年といったスパンで比較することもできる。

 そのほか、多項式の因数分解や、各国のGDP比(GDP per capita japan / United States)、面白いところでは、自分の誕生日の天気(weather nagoya oct 1967)なども回答してくれる。「Mathematica」という数式処理システムの開発者が手掛けただけあって、その強みは数字やデータに特化しているという点にある。

 つまり「Wolfram|Alpha」は、Googleのように検索語にマッチしたウェブページをリストアップするサービスではない。質問者の問いに対して、適切なデータを援用し、自ら計算して回答する――いわば、人工知能といった趣が強い。開発者が“計算知識エンジン”と呼ぶ由縁である。

 ただし、それだけに情報の精度を不安視する声もある。「Wolfram|Alpha」の答えが「本当に正解なのか?」という信頼性の問題である。因数分解などのように解が明確なものであればともかく、例えば「日本のインターネット人口」や「amazon.comのページビュー」といった、日々、変化している数値については、最新のものであるか、あるいは情報源などをチェックする必要はある。

 ネットの情報が玉石混淆であることを肌で感じてきた私たちは、その中から最適なものを選び取るという行為に、あまりにも慣れてしまっている。「Wolfram|Alpha」の場合、電卓代わりと割り切るならともかく、検索したのちに、Googleで再確認するという利用法が一般的になるのではないだろうか。敵対するというよりも、むしろ一般の検索エンジンを補完する役割を担うものが「Wolfram|Alpha」であるといえそうだ。

(中島 駆)