今年の冬、子どもがインフルエンザに感染した場合、親は難しい選択を迫られそうだ。

 インフルエンザ治療薬「タミフル」は早く熱が下がるとあってか、日本では昨年冬に860万錠も投与された。ところが、服用した10代の患者に、窓から飛び降りるなどの異常行動が相次ぎ、厚生労働省は今年3月、10代へのタミフルの投与を原則禁止。厚労省の審議会では、全年代で211人が異常行動を起こしたと報告されている。

 そこで、注目が集まるのが、同じく高い効果のある「リレンザ」など他の治療薬だ。しかし、じつは厚労省の審議会では、リレンザでの異常行動も10件報告されている。タミフルに比べ20分の1程度だが、タミフルのシェアが90%以上で、リレンザが1%程度といわれていることを考えれば、むしろ発生率はリレンザのほうが高い。

 ところが、タミフルと違い、リレンザなどの異常行動はあまり知られておらず、医師ですら知らない場合もある。

 審議会での報告がインフルエンザのシーズンではなく、メディアの注目度が低かったこともある。また、投薬と異常行動との科学的因果関係が解明されておらず、そもそも投薬とは無関係の高熱による異常行動もある。タミフルの使用禁止でも専門家からは科学的根拠を疑問視する指摘があった。現状では、厚労省もタミフル以外の治療薬に関しての異常行動への注意を喚起しにくいのだ。

 海外では、子どものインフルエンザに対して重篤な場合を除き、投薬しない親も多い。タミフルの全世界の処方件数のうち、日本が75%を占めるというデータもある。日本でも親の判断で、安静にさせるだけのケースが増えるかもしれない。

 しかし、問題は大流行が予測される新型インフルエンザだ。致死率が高い新型インフルエンザにはタミフルやリレンザが有効といわれている。親は子どもの異常行動のリスクと死のリスクを天秤にかけて判断を下さなければならないことがあるかもしれない。厚労省のホームページなどで情報を収集するなど、最低限のことはしておいたほうがよさそうだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 清水量介)