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スマートフォンの理想と現実

消費者は通信サービスに何を期待しているか
通信事業者に求められる「市場の再定義」

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第56回】 2013年12月11日
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 ただ、日本市場を念頭に、彼らの直近の動向を振り返ると、スマートフォン向けのゲーム関連に対する投資が目立つ。ガンホーの完全子会社化にしろ、フィンランドのゲーム会社「Supercell」の買収にしろ、通信事業の将来像に基づく判断というよりは、「ユーザーがとびつくゲーム事業者を買っておけばスマホ時代に損はしないだろう」という、近視眼的な対応にも映る。

消費者は通信サービスに何を期待しているのか

 NTTドコモやソフトバンクを揶揄したいというのではない。それどころか、通信事業者のM&Aに関するご相談をいただくこともあるのだから、私とて同じ穴のむじなである。

 だからこそ、私自身の問題としても感じるのだが、日本の通信事業者は、戦略面で大いなる課題を抱えている。率直に言って、悩んでいるのだ。

 業績こそ我が世の春のように見えるが、これとて支出を抑え、また消費者からの「徴税」によって支えられている。果たして通信事業者に対する消費者から支持がこのまま続くのか、当事者も含め、誰も確信が持てない状態である。

 ではその彼らを支えている日本市場の先行きはどうか。総人口の減少が始まり、労働力人口も遠からずピークアウトする。生産が停滞すれば消費も停滞する以上、新たな活路を探し出さなければ、企業としての成長はない。成長のない企業に魅力はなく、ひいては産業全体の衰退にもつながっていく。

 ところが、モバイル業界は通信事業者間の過当競争が激化している。最大の商機である春商戦に向けて、MNPのインセンティブ競争はまたぞろ拡大しているし、契約時にオプションサービスを盛り上げる問題も、ようやく改善の議論がなされはじめた段階である。良識ある消費者からは「目に余る」と苦言を呈されるほどだ。

 また固定通信事業者も、人口減少、都市化、競争環境の複合化、といった日本社会のマクロトレンドを先取りしつつある。現状のままでは利益の減少はおろか、赤字にさえなりかねない事態が、遠くない将来に訪れるだろう。

 先々に重大な課題が見えているのに、足下では過当競争に苛まれたり、旧態依然とした規制に手かせをはめられたり。一方で、顧客ニーズは一層高度化し、それに呼応するように技術革新は進む。こうしたトレンドへのキャッチアップができない事業者は、競争から脱落しかねない。いま脱落したら、先々の重大な課題どころではない。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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