企業内の資源配分の重要性

 日本の経済成長率を高めるうえでカギを握っているのがTFP(全要素生産性)であり、その伸びを高めるためには、より効率的な資源配分の実現が必要であるということを本連載の第37回以降で述べてきた。

 資源の再配分というと、産業間の資本や労働の移動をイメージする人が多い。たしかに生産性の低い産業から生産性の高い産業に資本や労働が移動すれば、経済全体の生産性も向上する。こうした移動は重要だ。ただ、産業間の資源移動だけが、資源配分の効率化をもたらすものではないことを、前回(第39回)強調した。

 前回説明したのは、同じ産業内の資本や労働の移動を論じた「メリッツ効果」である。農業などを見れば明らかなように、同じ産業のなかでも効率性や生産性の高い生産者と低い生産者が共存している。産業内の再編によって、産業全体の生産性が高まることが期待される。これが産業内の資源配分である。

 TPPのような市場開放政策や、過剰な保護を是正する国内制度の改革は、産業内の競争を促進し、結果的にその資源配分をより効率的な方向に導くことが期待される。TPPへの参加で日本経済の成長が加速することが期待されるのは、この産業内の資源再配分効果によるところが大きい。

 さて、今回は企業内の資源再配分がもたらす効率性の向上について論じてみたい。市場開放や規制緩和によって競争圧力がかかるようになれば、これまで企業内に隠れていたさまざまな非効率性があぶり出されるだろう。結果的に資源配分の効率性が向上し、生産性の伸びも高まっていくことになる。

 米国の経済学者ハーヴェイ・ライベンシュタインは、独占などに潜んでいる非効率性を「X非効率」と呼んだ。ブラックボックスのような存在なのでXと名付けたのかどうかは定かでないが、独占企業や規制で守られた企業は外から見えないさまざまな非効率性を抱え込んでいる。

前回紹介した需要と供給の概念を利用した通常の分析では、こうしたX非効率は表に出てこない。したがって、独占の排除や規制緩和によってもたらされる経済的利益は、通常の分析だと金額が少なめに出ることになる。しかし、現実にはX非効率が是正されるので、もたらされる効率的資源配分の効果は相当に大きくなるのだ。