いろんな軸を持つ教育で、環境を整える

松田 個性を認め合うといえば、今、うちの第一期生のフェロー(ティーチ・フォー・ジャパン出身の教師)が公立の小学校でやっている方法があります。子どもたちに自分はどんな人間かというのを、2軸のマトリックスの表に貼ってもらったんです。

 たとえば、活発型、協力型といった軸のある表、そのほかにも、自習が好き、外遊びが好き、読書が好き、計算が好きというようないろいろな表があって、自分がどこに当てはまるか、顔写真を貼っていくんです。

 いろいろな軸があるっていいですね。

松田 そうなんです。そうなると、生徒たちがお互いにいろいろな個性があるということがわかってきて、自分はこうだけど、みんなそれぞれ違うんだということが理解できるんですよね。

以前だったら、日本教育は正解主義だったと思うんです。つまり「○×」で評価する教育です。そうなると、1つの軸だけで評価されて、元気で活発の子が偉いとか、そういう雰囲気が出ちゃったと思うんですよね。

 でも、いろんな軸を提示すると、自分とは逆のところにいる子もいれば、違う軸の表で得意なこともそれぞれ違ったり……と、クラスの中でいろいろな個性や役割があってそれを認めて、それぞれが評価できるようになります。

 違いをお互いに評価できるんですね。自分と違うからダメという評価ではない。

松田 はい。そうなると、どうなると思いますか? クラス内で、まずいじめがなくなるんです。このクラスでは、どんな意見を言っても大丈夫という安心、安全が生まれるんです。そして、クラスの雰囲気がよくなると、授業が活発化して、成績が上がる。

 成績が上がると勉強が楽しくなってくるから、勉強に自分から取り組む……という好循環になります。このフェロー(教師)のクラスは小学校の5年生なのですが、6月段階で算数のテストが平均50点だったものが、半年後平均が90点になり、学年で1番の伸びになりました。

 環境が整うとやる気が出てくるんですよね。子どもたちに大切なのは、まずは人間関係。家庭、そして学校の人間関係がうまくいっていることがベースになる。楽しく学校に通えるか、そのうえに共同生活に必要なマナーやルールが守られているか、というのがあって、勉強はそれからなんですよね。だから勉強だけしたから成績が伸びるかといえば、そうではないんです。

松田 そうなんです。もちろん学校だけではダメで、家庭も安心、安全があっての成績向上なんですよね。

 そのいろいろな軸で考えさせる、というのはとても面白いです。実は、私は若いとき、担任を持つと自分のクラスはきちんとしたいと気負ってしまい、欠点に目がいってしまっていた時期があったんです。あるクラスを受け持ったときに、何をやってもテンポが遅い子がいて、この子、将来、社会でやっていけるんだろうかと、どんどん不安になっていき、「○○ちゃんの長所は何?」って聞いたら、その子は「私はみんなを和やかにしています」と答えたんです。それで私、頭を殴られたようにハッとして。

 そういえば、確かに、ほかの生徒たちが「先生、○○ちゃんが遅刻しないように、集合時間を早めに伝えておきました」と言ってきたりして(笑)、クラスがよくまとまっていたんですよ。その子は愛嬌のある子だったので、ムードメーカーになってくれて、みんながフォローし合って、いい雰囲気のチームになってたな、と。そのときから、一つの軸だけで評価しない、というのは常に気を付けています。

 結局、大人になると、一人でやる仕事はないじゃないですか。多少苦手なところがあっても、いいところがあれば、お互い助け合ったりしてなんとかなるんですよね。