「算数はよくても、国語がこれじゃあね……」子どもにそんなことを言ってはいませんか? 欠点ばかりに注目するのでは子どもたちの自己肯定感は育ちません。世界の視点で、すべての子どもたちに必要な教育を提供しようと教師を育成し、公教育の現場に送り込んでいるNPOティーチ・フォー・ジャパン代表、松田悠介さん。一方、私立の中高一貫校・品川女子学院の校長で、企業コラボ等、多彩な教育方法で注目されている漆紫穂子さん。一歩先の教育を考えているおふたりに、子どもたちに必要な「自己肯定感」について語ってもらいました。
なぜ自尊心が低い子どもが増えているのか
松田悠介(以下、松田) 前回、日本のいいところや自分のいいところを知らないと、「自己肯定感」を高めるのは難しいという話になりましたよね。
漆紫穂子(以下、漆) 私の本の中でも取り上げましたが、自分のいいところがわからず、自己肯定感が低い子どもが増えています。2011年の「日本青少年研究所」の調査では、「自分がダメな人間だと思うことがある」との質問に、「よくあてはまる」「まあまああてはまる」と答えた割合は83.7%だったんです。1980年にも調査しているのですが、その数は3倍になっています。
松田 教育現場をずっと見てこられていて、そういった子どもたちが増えているのはなぜだと思いますか?
漆 ほめてあげるのが苦手な大人が多い気がします。日本には自慢を慎むという文化があるからかもしれないんですが、もっと子どもをよく見て、ほんのちょっとしたことでもほめてあげることが大切だと思います。弱点を指摘されて伸びる負けん気の強い子もいますが、多くの子の場合、ほめられて、何か1つ自信を持つことができれば、それがほかのことにも応用されていくものです。
[品川女子学院校長]
東京都生まれ。早稲田大学国語国文学専攻科修了後、他校の国語教師を経て品川女子学院へ。2006年より現職。1989年から取り組んだ学校改革により、わずか7年間で入学希望者が60倍、偏差値が20上昇。世界経済フォーラム(通称ダボス会議)東アジア会議にも出席。2012年国際トライアスロン連合(ITU)世界選手権スペイン年齢別部門日本代表16位で完走。著書『女の子が幸せになる子育て』は7万部を越えるベストセラー。最新刊に『伸びる子の育て方』。現場教員歴約30年の講演は、お母さんだけでなく、お父さんにも大きな反響を呼んでいる。
松田 確かにそうですね。
漆 本校では中学3年のときに「やる気のスイッチが入るのはいつか」、というアンケートをとっています。そのやる気スイッチは、どうやら4つくらいあるんですが、そのうちの1つは「自分でできた!と思ったときにほめられる」というもの。自分の中で「できた」と思っているときに、まわりから肯定されると、自己肯定感が倍増するんです。それを、そのまま見過ごしてしまうと、定着しないこともあるのでもったいない。まわりが「すごいね」と認めてあげるとそれが財産になる。
もう1つ、子どもの自己肯定感が低い理由は、教科の評価が表に出がちなこともあると思います。日本の学校教育って、今は英数国理社などといった10教科くらいで通知表の評価がされていますよね。いずれの科目もできない子は自己評価が低くなりがちなんです。
でも、社会に出たら、そういった評価だけでなく、違う面が重視されることも多いじゃないですか。ずっと体育会系でがんばってきて、すごく体力があるとか、まわりを明るくする面白いことを思いつくアイデアやセンスがあるとか。
松田 そうですね。
漆 そこで、本校では企業とのコラボレーションを授業で取り入れていて、評価の軸を違うところにも作るんです。通常の勉強とは違う面で、社会人からほめられたり、認められたりすることで、自信がついて伸びていく子も多いですよ。