ガイトナー財務長官は、ストレステストに関する公表談話の中で、金融機関の国有化について、相変わらず否定的な発言をしているほか、金融機関の公的資金の返済開始にまで早くも言及している。Photo (c) AP Images |
5月7日、米国のストレステストの結果が公表され、米国の株価はこれを好感して上昇した。株価は発表前から上昇基調にあったが、結果を素直に受けたとめた形となった。これで、米財務省やFRBの「信認」は確立されたと言えるのだろうか。
今回はストレステストの前提となるデータや個別行の結果まで公表しており、情報開示という点では評価できる。株式市場もその姿勢を評価したのだろう。ただ、少し長い目で見れば、信認が確立されたとはいえない。そこには問題先送りの構図が見てとれるからだ。
金融危機からの脱却を図式的に示すと、(1)金融機関に対する査定によって不良資産の額と損失見込みを把握する、(2)不良債権の処理損失に耐えられ、かつ、自己資本不足によって貸し渋りや貸し剥がしが起きないように、金融機関に資本を注入する、(3)不良資産を金融機関から切り離すことによって、追加の損失が発生するリスクを小さくする。これによって、金融システムに対する信頼が回復する――というプロセスをたどる。
もちろん、(1)~(3)は順番が相前後したり、同時に進められることもある。米国で考えれば、昨年10月に成立した「緊急金融安定化法」による7000億ドルの資金(不良資産救済プログラム:TARP)が(2)に、3月に発表された官民共同の不良資産買い取りファンド設立が(3)に、そして今回のストレステストが(1)に当たる。もちろん、(1)が(2)、(3)の大前提になる。
株式市場の反応とは異なり、ウォール・ストリート・ジャーナル誌をはじめ、ストレステストが甘かったのではないかという疑問の声は、内外からあがっている。その論拠は次の二点に要約されるだろう。
一つは、この4月に発表されたIMF(国際通貨基金)の推計と比べて、あまりにも損失額や必要増資額が小さいというもの。もう一つはストレステストの前提になっているマクロ経済の見通しが甘いため、当然、結果も甘くなったというものだ(このあたりの論拠については、ダイヤモンドオンラインの5月13日の「辻広雅文のプリズム+one」、15日の「経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”」に詳しいので、是非、参考にしていただきたい)。
ただ、ストレステストは将来のシュミレーションだから、前提の置き方によって結果は大きく異なってくる。そもそも不良資産ですら、その定義によって金額が大きく変わる。また、金融当局が金融機関に求める自己資本比率も、そのハードルが高ければ高いほど、必要増資額は大きくなる。ストレステストの前提が妥当かどうかは、事後的にしか分からないので、結果が甘いか厳しいかについて、議論をしても水掛け論に陥りかねない。
むしろ問題は、米国の金融当局に妥協的な姿勢が見えることだ。
一つには、資本が十分にあると判定された金融機関の公的資金の返済を認めたことであり、もうひとつが金融機関の国有化について、否定的な発言をしていることである。
ガイトナー財務長官は、ストレステストに関する財務長官談話の中で、「幾つかの民間銀行は、政府に対し返済を開始することができる」と述べている。さらに米国のオンラインニュースのインタビューで、「政府が介入する、つまり、国有化すれば、もっと強固な金融システムになる、という考えがあるが、必ずしもそうだとは証明できない」と語っている。