とくにこの条項が組みこまれている分野は、アメリカが狙っている金融、医療、社会的インフラを中心に、日本の経済社会基盤の全般に関係する分野であり、アメリカはTPPで決めたことが永久に変えられないようにしているのだ。アメリカは米韓FTAでこの条項を使って、韓国を締めつけている。日本がこの罠に落ち込まないよう、断固としてこの条項を拒絶すべきである。
(3)スナップバック(Snapback)条項(アメリカだけは手の平を返せる)
スナップバックというのは、「手の平を返す」という意味である。ラチェット条項によって、韓国は米韓FTAの条項を変更できないのに、この条項によってアメリカだけが一方的に条項や関税を変えられるという内容である。
米韓FTAで見ると、韓国の自動車業界では両国で関税を撤廃しても、「韓国車の対米輸出でアメリカ製自動車の販売・流通に重大な影響が生じた」とアメリカの企業が判断した場合には、韓国製自動車の輸入関税撤廃を元に戻して、関税をかけることができるという内容である。つまり、アメリカは韓国と自動車に関して関税撤廃を決めておきながら、アメリカの都合でそれを変更できる(手の平を返す)のだ。しかし、韓国はできない。アメリカだけの一方的な権利が米韓FTAに入っているのだ。米韓FTAはまさに不平等条約である。日米TPPにも当然入ってくるものとみられる。
(4)許可・特許連携制度
あらゆるものに知的所有権が発生する。商標だけでなく、音や匂いも商標登録できる。著作権は現在の50年から70年に延長され、著作権料の支払い期間が20年も増える。医薬品や農薬については、ジェネリック医薬品や農薬を製造したり販売したりする場合、特許を取っている会社の同意なしでは、医薬品で5年間、農薬では10年間販売できない。これは「許可・特許連携制度」と言われるもので、その薬品を最初に開発した企業に対する許可手続きを極めて煩雑にして、特許権者の利益を長く保護するのが目的である。
日本に適用されれば、海外への特許支払代金が増加し、経費負担が増える。さらに、一般に普及しているジェネリック薬品も高くなり、所得の低い病人の負担が増える。
このように米韓FTAをベースにしたTPPでは、日本に「関税の撤廃」「資本取引の完全自由化」「規制の緩和・撤廃」を要求するだけでなく、アメリカの進出企業が絶対に有利になるよう仕組まれた「ISD条項」、一度決めたらアメリカに不利になる改訂はできない「ラチェット条項」など、多くの不平等条項が盛り込まれているのである。
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