1月中旬インドを訪ね、デリーに本社を置くソニー・インディアを取材した。

 強く印象に残ったのは、妥協なく高価格でソニー製品を販売しているソニー・インディアの営業姿勢だった。ある調査会社のデータによれば、インドのテレビ市場におけるソニーの市場占有率は30%ほど。その数字は高すぎるという異論もあるが、少なくとも海外でソニーがサムスンと肩を並べる市場はインドだけだ。デリー市内の大規模なショッピングモール内の家電量販店や街の混売店(多数のブランドを扱う小規模の商品別電気店)等々のラインナップを見ても、ソニーの健闘ぶりは明らかだ。

 薄型テレビの販売価格を見ると、各インチとも、最も高い価格をつけているのはソニーで、2番手がサムスンだった。ソニー・インディアの日比賢一郎社長は入社して23年になるが、じつに19年間を海外駐在してきた筋金入りの国際派である。

 インド市場と格闘する日比氏の根幹にあるのはソニー製品に対する圧倒的な誇りだ。日本製品は過剰品質でグローバル市場から見向きもされなくなったと日本人は自嘲するようになったが、日比氏は違う。自分を突き動かしているのは「ソニーのDNA」だと言い切る。ソニーのわくわくするモノ作りがあってこそ新興市場が開拓できると確信している。

 ポイントはインド仕様を体現した商品の供給だ。インド人が好む色味や強いコントラストなど「インド画質」を実現したテレビでなければ勝ち目はないということだ。

 もうひとつの日比氏の特徴は、莫大な宣伝広告費をかけたスタイリッシュなマーケティング戦略ではなく、地べたをはいずり回るドブ板営業なしに新興国市場の開拓はありえないと言う。

「エンジニアによるモノづくりの素晴らしさを、お客様に伝える『販売の基本動作反復による現場戦闘力の強化』。それがソニー・インディアの強みになっている」

 インドでソニーのアイデンティティを再発見した思いだった。

 先進国と新興国では、求められる製品も品質も違う。新興国は所得が低いから安物ばかりが売れると思いがちだが、それは違う。新興国も国柄によって事情が違う。ましてや人口12億5000万人のインドとなると、市場の深さが違う。映画『スラムドッグ$ミリオネア』に象徴される貧困層からお金持ちまで、市場が求める品質は極端に幅広だ。「お金持ちだけでも1億人はいる」といわれるインド。

 しかしソニーからは、今回の決算発表の場でも、インドをはじめとする新興国戦略が強く押し出されることはなかった。小手先の事業構造改革ではなく、ソニーを必要とする新興市場で、ソニーらしい商品を、ソニーらしく売り込んでいくなかにも活路があることを経営陣には認識してほしいものだ。