安倍首相は、「この春こそ、景気回復の実感を収入アップというかたちで国民の皆様にお届けしたい」と胸を張っている。念頭に置いているのは、昨年秋から行った政労使会議で、経済界に賃上げを要請したことである。その成果が今春闘に反映されると見越して、賃金上昇が家計を潤すと言っている。
しかし、賃上げが十分に進むかどうかはまだ不確定である。労務行政研究所が1月15日までに実施したアンケートでは、2014年の東証1部・2部上場級の主要企業を目安にした賃上げ率の予想は、2.1%(定期昇給を含む)となっている。
ただし、ベースアップに絞って、「実施する予定」と回答した経営者は全体の16.1%と少ない。画期的な成果は期待できないものの、筆者は2007・2008年の賃上げ率を少し上回る待遇改善になると見込んでいる。
では、上場企業の2%前後の賃上げ率に対応して、日本全体の賃金上昇にどのくらい寄与しそうなのか。毎月勤労統計のベースに計算し直すと、定期昇給を除く賃金上昇率は0.9%になる見通しだ。これだけの賃上げ率では、消費税増税の1世帯の負担増を完全にカバーすることはできない。
たとえば、消費税増税の負担増は年間8.1兆円である。勤労者世帯だけに限った消費税増税の負担増は4.4兆円。これに対して雇用者報酬が0.9%増加したと仮定すると、勤労者の所得増は2.3兆円に止まる。
もう1つの課題は広がりである。2014年に期待される賃金上昇は、大企業の正社員に限定されていて、中小企業や非正規雇用者には縁遠いと考えられている。
財務省「法人企業統計」を使って、資本金10億円以上の企業の人件費が、資本金1000万円以上の全企業の人件費のどのくらいを占めているかを計算すると、29.5%(2013年7-9月までの1年間の累計)であった。全体の約3割の企業の正社員の賃金上昇が実現できても、全体への寄与度はどうしても限定されてしまう。