桜井 日本酒の日本酒たるゆえんは「変わってきたこと」にあると思います。室町時代の後半に日本酒が完成し、杜氏という職能集団が改良を加えてきました。それも、彼らは職人ですから、根本を変えずに細部に工夫をこらします。日本酒の個性はそこにあると思うので、その根本部分を変えるとおかしくなるのではないでしょうか。
佐々木 酒蔵において、大規模化は必要ないのですか。
桜井 かつて、私たち酒蔵同士がよく言い合っていた言葉があります。地元出身の童謡詩人・金子みすゞ作「私と小鳥と鈴と」から一文拝借して、「みんなちがって、みんないい」(笑)。
でも、酒蔵といえどもメーカーですから、健全な成長は必要です。規模が大きくなることによって、不思議と、品質の基準も高くなるからです。ただ日本酒の場合は、仕込みの規模が大きくなると、糖化と発酵が同時に起こる並行複発酵のコントロールが難しくなるので、限界はあると思います。昭和40〜50年代に、日本酒メーカーが急成長したビールメーカーをベンチマークに大型設備投資をしたことがありましたが、仕込みの規模はそう大きくできず結局うまくいきませんでした。
佐々木 どこにポジションをとるか、ですね。
たとえば流通業界を考えてみても、全国一律で同じようなモールができても退屈ですが、東京新宿の伊勢丹や、大阪梅田の阪急のように、これぞ百貨店の理想といえる大きさや基準があることは、日本酒業界でも重要かもしれません。飲み方もふくめて、日本酒は伝統を作り替えるところに来ているのかもしれませんね。
桜井 私たちの昨年度の生産量は一升瓶換算で114万本と、純米大吟醸ではかつてないほど大きな支持を頂いています。でも、他から大きなシェアを奪ってきた結果という感じはしません。どうやら、<獺祭>は新しい飲み方をして頂いていて、今までと違う市場を開拓しつつある、新たな時代の賭場口に立っているのかなという気がしています。
佐々木 ぜひ今後も頑張って下さい。今夏に予定されているパリ店の開店日はいつですか?
桜井 ありがとうございます。開店日は、実はまだ確定していないんです。主力商品の「二割三分」にかけて、毎月23日だけは空けて備えています(笑)。
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