目立ち始めた
シャドーバンキングの償還事故

つがみ・としや
1957年生まれ、80年東京大学卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省、96年在北京の日本大使館参事官、帰国後北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員を歴任後退官、2004年から12年1月まで、日中専門の投資ファンドの運営に当たる。 現代中国研究、特に中国経済の専門家として知られ、コンサルタント業の傍ら日中双方に向けた評論発表や講演等を行っている。 著書に「中国台頭」(2003年サントリー学芸賞受賞)、「岐路に立つ中国」(2011年)、「中国台頭の終焉」(2013年1月、いずれも日本経済新聞社刊)、「中国停滞の核心」(2014年2月、文春新書)がある。

 今年に入って、中国のシャドーバンキングで生まれた「理財商品」の償還事故が2件起きた。いずれも石炭大省、山西省の石炭絡みだ。

 過去数年の「高成長」で活況に沸いてきた炭鉱業は、景気の減速や環境制約の強まり(PM2.5騒ぎ)の結果、炭価が2011年のピークから2割以上下落、大手100社だけをとっても3社に1社が赤字(業界統計)と、現在は一転して逆風に晒されている。

 借りた金が銀行融資なら大きな問題にはならなかったが、「信託+証券化」の手法で一般投資家に小口販売されるシャドーバンキング融資だったことが騒ぎを大きくした。これらの商品は、たいてい銀行の営業担当が優良顧客を勧誘して販売されたものだ。営業現場がどこまで「元本保証」の台詞を使ったか知らないが、新手のシャドーバンキングが過去2年で急成長した理由の一つは、「銀行が勧めるから」という安心感だった。

 中国では、過去にもときどき起きた支払事故が「元本保証」で解決されており、投資家は支払事故が起きると、商品の組成に関わった企業や販売に関わった銀行などの「責任」を追及する。

 今年の支払事故第一号「中誠信託」の事案では、債務者企業が事実上破綻しているので、「元本保証」はありえないはずだが、最終的には償還期限直前に、身許不明な「第三者」が会社を承継し、投資家が利息を放棄することを条件に、元本が償還されて決着した。「第三者」の素性は明かされていないが、山西省など関係政府や商品の販売に当たった工商銀行、信託会社が資金を出し合ったと噂されている。

「安全」と「高利回り」は二律背反のはずであり、この歪んだ「元本保証」慣行はやっかいな問題を生んでいる。理財商品の支払事故は、いまは一部の地方や業種の現象に止まっているが、今後増大していくことは避けられない。それに、2件の事故事案は、いずれも債務者企業が民営企業だ。政府系でもない企業の債務不履行までいちいち銀行や政府が尻拭いしていたら、損失負担が大きく積み上がってしまう。理屈上は「投資家の自己責任」を貫徹すべきところである。